02-03-11 漢一 酈食其

 劉邦りゅうほうに早い段階から仕えた儒者、酈食其れきいきについてだ。


 劉邦は酈食其に会う際、側女に足を洗わせた状態で面会、それを手厳しく注意されている。劉邦はあわてて酈食其を上客としてもてなし、以降説客、つまり相対する勢力に降伏を説く使者として用いた。


 項羽こううとの戦いが佳境にさしかかった際、酈食其は劉邦に六国それぞれの後継者を立てるのはどうか、と説いた。劉邦はその案を受け入れ、各国の印璽を作らせようとする。しかし張良ちょうりょうに下策だと一刀両断されると、劉邦は口の中に入っていたものを吐き出しながら言う。

「あのクソ儒者め、わしの事業を危うく潰すところだったではないか!」

 そして印璽を鋳つぶさせた。


 劉邦が韓信かんしんちょうえんを征服させた頃、成皐せいこうに到着したところで、再度項羽軍よりの包囲を受けた。劉邦はここで黄河を渡って北上、朝には趙の壁城に入り、韓信から軍を奪い、更に韓信には趙の兵を編成して斉を討て、と命じた。

 このとき酈食其は劉邦に「滎陽けいようを攻めて敖倉ごうそうの兵糧を確保し、成皐の要害を守るのが良い」と進言した。劉邦はこの案を受け入れた。


 劉邦は韓信を斉に向かわせているにもかかわらず、一方では酈食其を斉王・田広でんこうの元に赴き説得、降伏させる。この事態を受け、韓信の部下、「蒯通かいつう」が韓信に言う。

「漢王は将軍に斉を討てと言っておきながら、別に使者を発して斉を降伏させてしまいました。しかし、いつ我々に征伐中止の名が届きましたでしょうか? あの儒者が舌先三寸で斉を下したとなれば、将軍の数年間の功が、あの儒者に及ばぬと言うことになるのではありますまいか!」

 年が明けたところで、韓信は斉を強襲。田広は酈食其を釜ゆでとして殺した上で斉から逃走した。



蒙求もうぎゅう

伊籍一拜いせきいっぱい 酈生長揖れきせいちょうしゅう

 三国時代、しょくに仕えた伊籍いせき孫権そんけんの元に使いした。ここで孫権より「無道の君の下でひーこらするのは大変だな」と劉備りゅうびをなじられたところ、「いえいえ、無道の君にちょいと拝礼することなぞさほどでもございません」と、孫権を無道の君扱いして返答。この返しに孫権は唸ったという。

 酈食其れきいき劉邦りゅうほうに面会したとき、劉邦はその足を側女に洗わせていた。なので酈食其、さっと軽く礼をしたのみ、つまり仕えるべき相手ではなくその辺の人扱いした上で言う。「そなたが本当に暴虐なるしんを打ち倒したいというのであれば、両足を投げ出したままで人材と会おうとは思われぬことですな」劉邦、この言葉に慌てて謝罪したという。

 人君の無礼な態度に対し、ぴしゃりと返す弁舌の士。

 

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