02-03-09 漢一 張良 3

 張良ちょうりょうは幼い頃、下邳かひの橋の上でひとりの老人と出会った。このとき老人は履き物をわざと橋の下に落とし、張良に履き物を取ってくるよう命じた。その無礼な振る舞いに張良は老人に殴りかかろうとしたのだが、しかしその老弱ぶりを哀れに思い、履き物を取りに橋の下に降りた。履き物を渡そうとすると、老人は足を突き出し、履かせろ、と言う。それにも従うと、老人は言う。

「見所のある小僧だ。五日後にまたここで会おう」

 五日後に張良が橋に赴くと、老人は先に到着していた。そして老人を待たせるとは何事だと怒り、また五日後に来いと言う。その五日後にやって来てみればまた老人が先に来ており怒られ、また五日後に来いと言う。

 そこで張良、今度は真夜中のうちに橋に到着しておいた。老人がやって来ると先に到着していたことに喜び、一冊の書物を張良に与えた。「これを読めば帝王の軍師となることが出来よう。後日、済北さいほく穀城山こくじょうさんの下に黄石を見つけたら、それをわしと思え」

 夜が明けてから書を読んでみれば、それは太公望たいこうぼうの著した兵法書であった。なんとの不思議なことか、と思いながらも張良は日夜書を読みふけった。結果、ついには劉邦りゅうほうの軍師となるに至ったのである。

 天下が定まったところで、張良ははじめせいの地のどこかに食邑三万を与える、と言われていた。しかしそれを辞退し、劉邦と初めて会ったのがりゅうであったので、その地さえいただければ良い、とした。

 後に穀城まで旅したときに、果たして一つの黄色い石を獲得。張良はこの石をよく祀った。



蒙求もうぎゅう

子房取履しぼうしゅり 釋之結韤しゃくしけつばつ

 張良は若い頃謎のジジイに会った。そのジジイはいきなり自分の履いている草履を橋の下に投げ捨て、取ってこいという。内心ムカつきながらも取りにいってやった張良、その後も散々嫌がらせをされるのだがじっと付き合った。やがてそのジジイから一冊の書が渡された。なんとそれは太公望の著した兵法書だったのです! なっなんだってー!

 漢の文帝に仕えた張釋之はその取り仕切りが公平なことで有名だった。あるとき黄老の術に長けたジジイが宮廷にやって来ると、居並ぶ官僚たちの中、張釋之の前で立ち止まり、いきなり「わしの草履の紐を結べ」と言い出した。張釋之も素直にそれに従う。なに張釋之を辱めとんねん! と周りがいきり立つと、「は? この中でこいつがいちばん才能があろう。なのでこいつを重んじさせるためにやっとんのよ」とジジイは言う。「賢人に仕える者は徳がある」というわけだ。つまりジジイを賢人とすれば(いやもちろん賢人なんですが)、張釋之の徳が重んじられるというわけだ。なっなんだってー!

 賢きジジイに弄ばれた賢人ふたりは、やはり世に重んじられるのでした。

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