02-03-07 漢一 張良 1

 前 216 年に話は戻る。張良ちょうりょうの先祖は五代にわたってかんの宰相であった。そこで復讐を志し、始皇帝しこうていが東に巡遊するところを狙うことにした。始皇帝一行が博浪沙はくろうさにさしかかったところで力士に鉄の杭を始皇帝めがけて投擲させる。杭は始皇帝の隣の車に命中。始皇帝はこの暗殺に驚き捜索させたが、犯人は見つからずじまいであった。


 その後劉邦りゅうほうに合流、咸陽かんようを陥落させた後、項羽こうう鴻門こうもんにまで迫ってくる。張良は劉邦に従い項羽の元に出向く。そして項羽に謝罪。項羽もひとまず怒りを収め、酒宴を開くこととした。表向き和やかな宴会であったが、その裏では劉邦暗殺の謀略が渦巻く。そこで劉邦はトイレに出るふりをして鴻門より脱出、霸上の自陣に撤収した。あとに留められた張良が、項羽に詫びを入れる。

「劉邦様は将軍のお相手も出来ぬほどに泥酔してしまったとのことで、暇乞いも叶いませんでした。よって白璧を項羽将軍に、玉斗を范増はんぞう様に献上するよう、臣にお命じになられました」

 これを聞いた范増は剣を抜き、言う。

「ああ、将軍の天下を奪うのは、きっと劉邦であろう!」


 楚漢戦争の最注、酈食其れきいきは劉邦に六国それぞれの後継者を立てるのはどうか、と説いた。劉邦はその案を受け入れ、各国の印璽を作らせようとする。やがて食事中の劉邦の元に張良がやって来たのでその話をすると、張良、情勢についての八つの難題を提示する。そのうちの一つ、第七条が以下のようなものだ。

「遊説の士が親元を離れてでも王の元につくのは、わずかなりにでも自らの土地を得んがためである。ここで六国をそれぞれ立てるようなことがあれば、遊説の士は故国の旧主に仕えようとする。またいま天下は漢対楚の情勢下にある。ここで六国を立てれば、楚になびく者も現れる。このような情勢となって天下が取れようか?」

 それを聞き、劉邦は口の中に入っていたものを吐き出しながら言う。

「あのクソ儒者め、わしの事業を危うく潰すところだったではないか!」そして印璽を鋳つぶさせた。



蒙求もうぎゅう

黥布開關げいふかいかん 張良燒棧ちょうりょうしょうさん

 劉邦りゅうほうによって閉ざされていた函谷関かんこくかんを、黥布げいふが間道を使って裏から襲撃、開かせた。その後劉邦が漢中かんちゅう王として任地に赴く際、漢中に至るため山道に通されていた道を張良ちょうりょうが焼き払うことで、劉邦に逆襲の意図無しと見せかけるようにした。

 どちらも鴻門こうもんの会に絡んでくる話である。

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