01-16-02 蒙求 上2

向秀聞笛しょうしゅうぶんてき 伯牙絕弦はくがぜつげん

向秀(晋)&伯牙(列子)

 向秀は竹林七賢ちくりんしちけん嵆康けいこうと良くつるんでいたのだが、その嵆康が処刑された。後日ふと街角で寂しい笛の音を聞き、無二の友人のことを思い出し涙したそうである。

 琴の名人伯牙には鐘子期しょうしきという友人がいた。しかしその鐘子期が死んでしまうと、伯牙は「これでおれの琴を聴かせるべき相手はいなくなった」と琴を破壊した。

 友人の死にまつわる、音楽の話。


蔣詡三徑しょうくさんけい 許由一瓢きょゆういちひょう

蔣詡(前漢)&許由(逸士伝)

 蔣詡は王莽おうもうの権勢甚だしい頃高官の地位より退き、田舎で庭に三本の小道を引いて、それぞれの先に松、菊、竹を植え、それを愛でる生活で満ち足りた。一説では家から門、井戸、トイレへと通じる道だったともされる。

 許由は五帝・ぎょうよりの禅譲を求められたが蹴り飛ばした隠者である。箕山きざんに隠遁し、水を飲むにも川から手ですくって飲むような状態であった。それを見かねた人から杯を譲って貰ったのだが、結局煩わしくなって捨てた。

 シンプルイズベストな生活を貫くふたりの隠者。


西施捧心せいしほうしん 孫壽折腰そんじゅせつよう

西施(荘子)&孫壽(後漢)

 絶世の美女と呼ばれる西施、彼女は憂いのあまりに顔をしかめていた。それを見た醜女がその美しさに憧れ、特に心配事もないのに顔をしかめた。まあお察しである。なお西施はその後越えつ勾践こうせんの策略として夫差ふさのもとに送り込まれ、夫差を骨抜きとする一役を担った。

 折腰とはくねりと曲げられた腰、である。末期の後漢を専断した梁冀りょうきの妻、孫寿そんじゅ。一言で言えばどちゃくそエロかった。このため梁冀を誤らせ、後漢を傾けさせるに至った、と言うわけだ。

 傾国の美女は、他者をも誤らせる。当人にとってはいいとばっちりのような気もしないではない。


澹臺毀璧たんたいきへき 子罕辭寶しかんじほう

澹臺(博物誌)&子罕(左伝)

 澹臺は値千金ともされる璧玉を所有していた。その璧玉を持って川を渡ろうとすると、その川の神が璧玉を欲し、大風で川を転覆させようとしたりサメをけしかけたりして奪い取ろうとする。そのいずれをも乗り越え、渡河を終えると、澹臺は璧玉を川に投じた。神は返却してきた。投げた。返ってきた。投げた。返ってきた。しまいには澹臺、璧玉を破壊した。

 宋の国の城主である子罕のもとに璧玉を持ってきた者がいた。しかし子罕はことわる。「私は倹約を宝とする。あなたは璧玉を宝とするのだ。受け取れば、どちらもが宝を喪うこととなるのだ」と。

 宝に執着しないふたり、と言うか前者は川の神お前いい加減にしろよ案件では……?

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