明日やる
@J2130
第1話
「今日できないことは、明日もできない」
「誰にも明日がくるとは限らない」
みんなでテレビを見たり、ごはんを食べたりする部屋の、犬のタロウがいつも寝そべっているソファの上のかべにはママの字でこんなことが書いて貼ってあるんだ。
これはね、
「明日やる…」
「次の日曜にする…」
「このテレビの番組が終わったら…」
「おふろでたら…」
と言って、今日も今も片付けもなにもせずに、でも明日や次の日曜やテレビが終わっておふろから出ても、結局なにもしないぼくのためにママが新聞のチラシの裏に書いて貼ったものなんだ。
でもいいんだ! だってぼくはまだ子供だし大人になるまで、たくさん時間があるからね。
でもひとつだけ、ママに言われなくても今や今日やることがあるんだよ。
それは犬のタロウのえさやり。タロウはまだ子犬でね、すごくかわいいんだ。この仕事だけはぼくはよろこんでやるんだよ。だけど少し最近タロウ元気がないんだよね。
「たつや、病院につれていってあげて…」
ママがそう言ったとき、ぼくは
「うん…明日ね」
と言ったんだ。
そうしたらママ少しさびしそうな顔をしたよ。ぼくはちょっと気になったけれど、見たい番組もあるし行かなかったんだ。
****
“いつもの朝”のはずだった。
起きるとなんだか変な感じ。部屋は昨日よりずっと汚れていて、床は歩けないくらいものがちらかっていた。
ぼくはけがをしないようにしんちょうにあるいてひきだしまで行って着替えをとるためにあけてみた。そうしたらなんにもないんだ。シャツひとつないんだよ。
「ママ!着替えがなーい!」
あわててママとパパの部屋に行ったら、まだ二人とも寝ていた。
「ママ着替えないよ!パパ会社いいの?」
パパはいつもぼくが起きる前に会社に行っているんだ。どうしたんだろう今日は。
「明日せんたくする…」
ママが寝たまま言うと、
「会社、明日から行くよ…」
パパもおふとんをかぶりながら言った。
「え~!」
ぼくは大きな声で驚いた。
「今日は昨日着た服をきていって…」
ママは眠たそうに応えて眠ってしまった。
なんだろう? もう!
ぼくは顔を洗うために洗面所に行った。
でも、ここもなんか変だ。そうだ、いつもじゃれついてくるタロウが来ない。あれ?どんなに元気がなくても朝はぼくのそばにかけよってくるのに…。
ぼくは心配になってタロウのソファのある部屋にいった。するとタロウ、いつものように寝ていたよ。ぼくは安心して、タロウをなでようと近づいたんだ。そうしたらね、どこかちがう。
タロウ、寝ているときでもおなかをいそがしそうにふくらんだりへこませたりしているのだけれども…、今はぜんぜん動かない…、動いてないんだ‥。
あわてておなかにさわるとね、つめたい。
え…? タロウ! ねえ、タロウ! 死んじゃったの? ねえタロウ!
ぼくは床に頭をつけて大声で泣いたんだ‥。もう悲しくて悲しくて。
温かい涙がぽろぽろ流れたよ。
タロウ! ごめんね、もっともっと大事にすればよかったよ、ごめんね。
ぼくはタロウを床から見上げてみた。ほんの少しでも動かないかと思って…
するとソファの上、タロウのもっと上のかべにママの書いた紙が見えたよ。
「今日できないことは、明日もできない」
「誰にも明日がくるとは限らない」
ぼくはもっともっと大きな声で泣いた。あまり大きな声だったので、それでね…
***
起きたんだ。目が覚めた。
「夢だ…、よかった…」
ぼくはすぐタロウを見にいったよ。まだねている、でもおなかは動いている。
「どうしたの? 今日ははやいのね」
ママが朝ごはんをつくりながら言ったよ。
「ママ、ママ! ぼくね、明日じゃなくて今日タロウを病院へつれていくね。今日お部屋の片付けをするね。今日…、今日、するね!」
ママはうれしそうな顔でぼくに近づいてくると、頭をなでてくれたんだ。
おわり
明日やる @J2130
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます