第7話 女神様を愛称呼びすることになりました。


「女神様もお花が大好きなんですね。」


「も、ということは、愛しの子も好きという事ね?」


 フワリと柔らかな風が吹き抜け、花々が挨拶するように揺れる。


「はい、大好きです。前の時は花にはたくさん癒して貰いました。

 触覚も視覚も嗅覚も味覚も、たくさん幸せにさせて貰いました。」


「ほう、視覚と嗅覚は分かるが…触覚? 味覚…。」


「女神様も知らない事があるんですね。

 人間は花の使い道を色々試行錯誤して、見たり嗅いだりするだけではない使い道を作りだしました。

 触覚は、花のエキスを入れたオイル…この世界でも使われてますよね。

 肌や髪につける香油って奴です。

 ただのオイル…油だけを塗るよりも、花のエキスには美肌効果があったりするんですよ。組み合わせ次第でオイル自体もより滑らかになりますし。」


「香油は知ってるわ。使用した事はないけれど、教会にお供えとして献上される事もあるのよ。私は見るだけで、物を受け取る事はしないから、教会の誰かが使ってるのかしらね。」


「そうなのですね。あんな眩しい光を出して姿を現そうとしてたの数百年ぶりだって言ってましたもんね。」


「そうなの。まぁそれはいいわ。それで、味覚って…食べるの?」


 女神は触覚よりも味覚に興味津々だったようだ。

 少し前のめりになり、距離感を詰めてくる。


「食べられる花びらとか食用の花が栽培されていましたが、私は食べた事はありませんでした。味覚は“花茶”として飲んで楽しんでいました。

 花茶は乾燥させた花弁を茶葉に混ぜたものや、乾燥させた花弁だけを使用したハーブティーと呼ばれるものだったり。

 こちらの世界でもハーブティーってありましたよね?」


「ハーブティーはあるわね。私も飲んだ事があるけれど、花の何てあったかしら?

 薬師が用いる薬湯に使用される薬草を使った物だった気がするわ。」


「ふむふむ、薬師の方が使用する薬草の中にも花を付けるものがあるかもしれませんが、そこは今度調べておきます。もし存在しなかったら、作ってみるのも楽しそうです。」


「それはいいわね。出来たら私も飲んでみたいわぁ。教会に持ってきてくれる?」


 楽しそうに両手を打ち鳴らし胸の前で組むと、おねだりをするように顔を覗き込んでくる。


「勿論、そのつもりですよ。ちょっと近いです。」


 嬉しそうな顔でパッと微笑んだ後、渋々と距離をとる女神。


「花弁を乾燥させて他の茶葉と混ぜる際に、茶葉を加工して糸で縛ったりして形を整えて、お茶を淹れる時に茶葉の形の変化だったり、まるでお湯の中で花が咲くように開く様子を楽しめる目にも楽しい物もあります。

 花茶にひと手間加えるそれらは、工芸茶あるいは龍須茶と呼ばれて女性から特に好まれていました。」


「お茶だけで色々あるのねぇ…。

 私も花がお湯の中で開くお茶とか飲んでみたいわ。」


「そちらもこの世界にあるか探してみて、無かったら作ってみたいです。」


「…それは、私にも貰えるのかしら?」


「勿論ですよ。」

 ニコニコと微笑めば、女神に嬉しそうに抱きしめられた。


(女神様も私と同じで体は柔らかいんだなぁ。何となく強そうなイメージで筋肉でガチガチに固いと思ってた。同じなのは嬉しいなぁ)


「私も嬉しいわ。筋肉ガチガチの体に変化する事も可能だけど、どうする?」


 ギュっと抱きしめる力が強くなってきた。


「それは遠慮しておきます。ちょっと苦しくなってきました。放して下さい。」


「あら残念。」


 解放されてスーハ―と深呼吸する。

 息が苦しくなるまでギュっとすることないではないか。


「さて…貴女の能力なんだけど。」

「あ、その前に、ちょっといいですか?」

 女神様が話始めたけれど、忘れないうちに訊いておきたいことが、モフモフ聖獣達の事以外にもあったのだ。


「あの…私って何て名前なんですか?」


「えっ…?」


 ポカンと口をあける女神様。

 これだけ美しい人は、ポカンとした顔すら美しいんだなと思う。

 美しいけれど、可愛らしくも見える?


「…ありがとう。それはいいとして、名前って教えて貰ってないの?

 呼ばれるわよね? 両親に。」


「それが、シアとしか呼ばれてなくて。誕生してからの記憶の中を思い出しても、シアとお嬢様の二つと、たまに初めてお会いする講師の方達からファルメール公爵令嬢と呼ばれる事くらいでしたから…。」


「……そうなの。人間の世界は、愛情が深いとフルネームでは呼ばないのかしら…?」


「どうなのでしょう。お父様は、お母様の事もリアと呼んでいますので、愛情から名前を縮めて呼びたくなるのかもしれません。自分だけが呼べる愛称のような?」


「貴女はリティシア・ファルメールよ。母親は…えーっとちょっと探るわ。父親の名も知らないのも良くないでしょうから、そちらも…」

「私はリティシア・ファルメール…」


 女神様は数秒目を閉じたと思ったら、パッと目を開けた。


「母親は、アルメリア・ファルメール。父親は、リヴィオ・ファルメール、ね。」


「アルメリアお母様と、リヴィオお父様ですね。両親の名前も分からないなんて、二人にも申し訳ないですね…。女神様ありがとうございます。」


 女神様にペコリとお辞儀する。


「貴女が謝る事じゃないわ。名前を呼ばずに愛称呼びだったのだのだし。私も“シア”って呼びたいわ。呼んでもいいわよね? はい、決定。」


 いいですよ。というつもりだったのに、女神様が強引に締めくくる。


「……はい。いいですよって言わせて下さい。」


「有り難う、シア。」


「女神様はフェルティナというお名前なので、フェル様かティナ様どちらがいいですか?」


「あら! 私も呼んで貰えるのかしら! 何て優しいの私のシアは。そうね、シアが好きな方で呼んで貰いたいわ。」


 喜色満面の笑顔が眩しい女神に、リティシアもつられて微笑む。


「では、ティナ様で。」


「ええ! シアだけの呼び名よ! 誰にも呼ばせない大切な名前になったわ!」


 無邪気に喜びを顕にする姿は、女神様という崇高で近寄りがたい存在というよりも、天真爛漫なとても美しい女性にしか見えない。


「お互いの呼び名も決まった事だし、そろそろシアの能力を説明させて頂戴ね。」


「はい! お願いしますっ」


 あちらこちらに話題が飛んでしまって、本題に入るのが遅れたけれど、

 いよいよティナ様に私の能力を説明して貰う事が出来そうだ。


「シアの能力はね、複製、付与、吸収、他にもあるけれど大きな力はこの三つね。」


「複製、付与、吸収…?」


 何の……?

 リティシアは頭の中が?で一杯になった。

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