第8話 女神様…? この力、大丈夫なんですか。


「女神様、もし違っていたらごめんなさい。複製、吸収、付与ですが、私の前の世界でいう所の“コピー”“カット”“ペースト”みたいなものですか?」


「何それ。」


 キョトン顔女神様、先程のようにまた目を閉じて何かを探るように思案する表情になった。


「―――ああ、そういうこと。パーソナルコンピューターと呼ばれる箱型の機械で作業する際の機械に指示を与える言葉ね?」


(そんな感じなのかな…? パソコンでする作業に使われる言葉だし。)


「先程の能力は、シアの認識とそう差異はないわ。」


(ふむふむ…って何をコピペできるのかにもよるけど、どんな能力なんだろう?)


「それはね、スキルと呼ばれる生まれながらにして授けられている能力よ。

 極まれに生まれた時には発現しておらず、後に現れる事もあるらしいけれどね。

 スキルと呼べる程には弱くて力がなく発現できなかったものが知らずにあって、

 本人の努力で能力が向上した結果発現に至った。のかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。そこら辺は、私も勝手に進化するままに放置してるのよね。」


(…放置って。)


「あら、愛がない訳じゃないのよ。私が手を加えずとも進化しているのだから、そうね…見守ってるって事よ?」


(物はいいようって言葉がありますけどね)


「シア、そんな責めないで頂戴。シアは大切にずっと見守るつもりよ?」

 眉をへにょりと下げて困った顔をする女神。


(…何故ここまで大事にされているか分からないなぁ)


「それは、シアだからよ。愛しいシアだから。」


(ますます分からない)


「深く考えないでいいの。ただ愛されて嬉しいって思っていればいいのよ。

 話を戻すけれど、シアの能力はそのスキルを所持してる対象から吸収して取り上げたり、複製したスキルを自分の物にしたり、誰かに与えたり出来るの。

 どう? 凄い便利でしょう?」


(な、なんですって!?)


「それは…便利っていうよりも神の御業のような代物では? 吸収なんて相手に気付かれたら、末代まで呪われそうな力ですよ!?」


「感覚がある訳じゃないから気付かれる事はないけれど。この能力を持ってるとは吹聴しない方がいいでしょうね。」


「絶対にしません。付与なんて権力者からすれば涎ものではないですか。誰かから吸い取ったり複製した力を付与する事で、更なる力を得る事が出来る。

 それも、際限なくですよね? スキルは一人一個とかではないですよね?」


「そうねぇ、シアは際限なくスキルを得られると思うわ。

 加護による肉体の強化と魔力量増加に加えて、元々の体の器が思わずシアに選びたくなるくらいの優秀だったもの。シアは特別よ。

 けれど、他はどうかしらね? どちらにしろ付与される側の器次第ではないかしら。器以上の力を持とうとすれば、一番最悪な状態ならば内側から壊れていく結果になると思うわ。」


「内側から壊れていく?」


 女神から物騒な単語が出てきてリティシアは怖くなる。


「端的にいうと、肉体の死を迎えるって事かしら。

 ジワジワと死に向かうかすぐ死ぬか、器の力と一度に与えるスキルの量次第でしょうけど。」


(何それ怖すぎる…。)


「ふふっ、それは使う人次第って事よ。だから、シア次第。

 シア以外の人間に付与する時は慎重にって事。

 悪い人間に無理矢理つけさせられる時は、無理を言った相手の自業自得でしょ?

 シアが気にする事じゃないわ。」


「いやいやいや! 目の前で死なれるのも、怨嗟を呟かれながら死なれるのも嫌です! 」


「他に知られなければいいのよ。それに、知られても逃げ切れる能力を持たせてあるつもりよ。私の加護は強力なの。この世界の誰にもシアを殺す事は出来ないわ。

 悪意や殺意を持った人間はシアに触れる事も出来ない。

 それに、この世界で一番の膨大な魔力量と体力を持っているのよ。

 向かう所に敵は無し! シアの為に授けた能力に死角なし!」


 女神はビシィ!と、リティシアに指を突きつける。


(……魔力はまだ分かるけれど、体力までなんて…私は化け物にされたって事?)


 リティシアだって女の子だ。守られたい願望がある。

 しかし好きな相手より強い女の子。

 守る側になってしまったではないか。


「ティナ様…? この力、大丈夫なんですか。私、人間じゃなくないですか?」

 とんでもない事になったとリティシアは怖くなった。

 プルプルと体まで震えつつ、リティシアは女神に問う。


「シアは可愛い人間よ。化け物なんかじゃない。私の愛し子だったというだけよ。

 それにね、シアには世界を引っ掻き回して欲しいって最初に話したでしょう?

 堂々としていればいいの。そして、私を楽しませて?」


(本音はソレかーーーー!)


「堂々と楽しそうに過ごすシアを見るのが楽しいの。シアが思うような愉しみは別の子が用意されてるって言ったじゃないの。シアにはそんな酷い事はしないわ。」


(それって、私が関わり合いたくないって言ってた子…。この世界のヒロインでは?)


「そうそう! 覚えててくれたのね。その子もちゃんと転生しているわ。

 今も自分はヒロインなのだと勘違いしたまま生活してるのよ。

 学園に入学してから、自分が複数の異性にチヤホヤされる未来がスタートすると勘違いしたまま夢を見てるようだけれど、残念ね、全くヒロイン扱いされない子よ。」


 ククッと嗤う女神。


(そのヒロインって子、ティナ様にこんな顔させる程なんて…どんな悪い事をしたのかな。)


「そうねぇ…今は言うつもりはないけれど、いずれ話してあげるわ。

 私は絶対に許せない事を彼女はした、とだけ言っておくわ。」


「はい…」


(ティナ様の顔が怖い…。それにしても、心の中で呟いても口で発言しても全部に返答が返ってくるから、何もかも見透かされていて、何だか不思議。

 これ口にしなくても心の中で思ってるだけで会話成立するよね?)


「そうね、成立するわね。それにシアは心の中の会話の方が気易い感じの口調なのがいいわ。でも丁寧に話されるのも悪くないのよねぇ…。

 どちらでもいいわ、シアが言葉にしたい時は声に出して話してもいいし。

 口にするのも億劫な時は心の中で呟いて貰えればいいのよ。」


「あまり深く考えない事にします…」


「シアの性格上その方がいいわ。気にしない事が一番よ。

 相手は私よ? 気にするだけ無駄だわ。」


 よく分からない言い分でこの会話は締めくくられた。


(うん、気にするだけ無駄無駄。相手は神様なのだから)


 私の心の声に「うんうん」と頷くティナ様である。


“犬に論語”そんな言葉が頭の中に浮かんだ。



 ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅


“犬に論語”とは?


 リティシア「道理の通じない者には何を言っても無駄であるということ を意味することわざです。」


 だそうですよ、ティナ様。


 女神「私のシアは私を良く理解してくれているのね。流石、私の愛し子だわ!」


 褒めたことわざではないのですが、通じてないようですね。

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