第5話 教会へ行こう!
私の髪は母譲りで艶やかな銀の髪だ。
銀の髪は艶が命らしく、メイド達はそれはもう丁寧に手入れをしてくれる。
細目の長い髪は絡まり易いので、花の香りのする香油をしっかりと塗ると、時間をかけて丁寧に梳ってくれる。
人の手で優しく梳かして貰うと、眠くなるほどとても気持ちがいい。
メイドさん達に「いつもありがとう」と伝えると、皆にっこり嬉しそうに微笑んでくれるので、伝えた私もほっこりしてしまう。
そんなメイドさん達の努力のおかげで、私の髪はいつも天使の輪っかが出来た艶々した銀髪である。
思わずうっとりする程の手触りと見た目の美髪なのだ。
父は黄金色の髪と瞳を持った美形さんだ。母がサラサラとストレートの髪質に対して、少し癖のある髪質で、くるんと跳ねた毛先の先まで柔らかそうだ。
黄金色の綿菓子みたいにフワフワしているので、私がまだ二歳程の時、父に抱っこされるたびに肩までよじ登り、柔らかい髪をはむはむと食べてたらしい。
七歳の今も父の髪はとても豊かなので、無くなってなくてホッとしている。
ちなみに黄金の瞳はこの国だけでなく、世界でも珍しい色だという。
とても珍しい色は代々と我が国の王族だけに受け継がれていき、黄金の瞳持ち=王族の血筋とすぐ分かる程に有名らしい。
黄金の瞳云々で継承問題にも発展しそうだが、大変不思議な事に、王族の血筋の長子に黄金の瞳持ちがはほぼ確実に産まれる上、黄金の瞳持ちは優秀な人間が多い言われているが、長子を蹴落として我がという者が何故か出てくる事はなく、王座を得んと熾烈な争いが起こった事がない。
王様も王弟のお父様も黄金の瞳持ちだけれど、継承権争いなど一切起こらなかった。
兄の治世を盛り立てようとせっせとお仕事を頑張るお父様はカッコイイ。
そんな弟を兄である王様はとても可愛がってくれてるとか。
だから、私のハーフバースデーでも叔父様である国王直々に来てくれた上、終始ご機嫌だったという話だけど、そうなのかな?
王弟と隣国の王女様の子供だから、って訳じゃないみたい。
情報元は幼い私を同い年のように扱ってくるゼクス。
執事長のチャールズの息子さんで、有能な父親と同じ様に有能だとお父様が言ってたから、多分ちゃんとした情報なんだろう。
馴れ馴れしい人だけど、色んな情報をくれるのは有難いので、情報賃だと思って我慢している。
実は私の瞳も金色な為、王位継承権が下位ではあるが持っている。
現在の黄金の瞳持ちの子供は四人居る上にそのうちの三人が王位継承権上位が占めているので、私にはほぼ関係のない事で安心している。
王様の子供である王子二人と王女一人、そして王弟の娘の私。
王様の子供達全員と今回会ったけれど、私の中の記憶では挨拶くらいはしたよね…? 状態であり、顔はちょっと思い出せないというかなり不敬な感じである。
次に会った時に「二度目ですね」って言われたら誰? と不敬な思いを抱く事のないよう、お父様に絵姿を見せて貰わなければならない。
王族の方々は、ガチガチに緊張する私にとても優しく接してくれていた…と思う。
もしかして、異常なくらい公爵家の令嬢たれと努力する事にこだわり気負っていたのって、異常な程に緊張してしまう人見知りが強めの根っこの性質をハッキリと分かって対策をしていた訳ではなくとも、本能で何となく察していたのかも? と、思う。
そんな緊張に強張って可愛げなど無さげな私を、初めて接する相手だというのに偏見を持たずに真摯に優しく接してくれて貰った。
王族としての教育だけでは育たない、人としての思い遣りをしっかりと身に着けてる王子様と王女様。
これは親である国王と王妃が溢れんばかりの愛を持って情操教育してるんだろうなと想像出来る。だってウチがそうだもの。
国王の弟であるお父様がここまで愛に溢れた性格なんだから、兄の国王様も同じ私室をお持ちなのだろう。
王族の方々は、大変性格も素晴らしい人達なんだろう。
大袈裟かもしれないが、現王の子供の治世も穏やかに過ごせそうだなと思った。
余談だけれど、母の瞳はブルーサファイアのように煌めく瞳だ。
父は母の輝く瞳なら飽きる事なく何時間でも一日中でも見つめ続ける事が出来ると、惚気ていた。
母への愛が強すぎて、父が纏う宝飾品は全てブルーサファイアだったりする。
カフスもタイピンも母と揃いで誂えた片耳だけのピアスも全てブルーサファイアだ。
ちなみに母の宝飾品は全てイエローダイヤモンドだ。
父の瞳に似てる色がその宝石らしい。
そこにゴールドのチェーンを使ったネックレスをプレゼントしている。
父の色は純粋な黄金色。
記憶が蘇る前の幼かった私にはまだ分からなかったが、戻った今は少々執着が過ぎるのではないかと心配したりもするが、母がとても幸せそうだからいいんだろう。
父からも母からも、二人が溶け合ったような容姿の私は愛の証そのものに見えるらしく、可愛い可愛い愛しい愛しいと溺愛されている。
(愛されないよりは愛される方が幸せ、女神様の言う通りに大事に愛されて情操教育ばっちりだよ!と言ってあげたい。教会に行ったら一番最初に報告しよう。)
父と母よりは準備に時間の要らない私は、玄関前で執事のチャールズと共に二人を待っていた。
くすくすと笑い合い、戯れるようなチュッチュッと小さな音は、恐らくリップ音というヤツだろう。
相変わらずの熱愛ぶりに、弟や妹が今まで居なかった事が不思議でならない。
どうみたって毎日がハネムーン的な二人だと思うのだけど。
「シア、お待たせしたかな?」
母の腰を抱きエスコートがてら父が申し訳なさそうに訊いてきた。
「いいえ、お父様。少し前に来たばかりよ。」
イチャイチャしていた両親を気遣っての事ではなく、本当にそんなに待っていないのでそう答える。
「シア、ピンクのワンピースが本当に似合うわ! 次もピンク色で誂えようかしら!」
母が嬉しそうに褒めてくれる。
しかし、ピンクはさほど好きな色ではないので程ほどにして貰いたい。
「天使のような愛らしさとは、私達の娘の事だろうね。そう思わないかい? リア。シア、朝も可愛かったけれど、今も本当に可愛いよ。」
ちなみにお母様の愛称は“リア”なので、私の“シア”と似ていてちょっと紛らわしい。
父のほめ方は毎回大袈裟だ。
最愛の妻から生まれた娘を溺愛してるのは分かるけど、自分の顔面偏差値の威力を理解して褒めてほしい。
記憶が戻った事で美形耐性がリセットされたのか、目が潰れそうな眩しい美貌に頭が真っ白になりそうになった。
いちいち心臓が止まりそうな微笑みを向けるのはズルいと思う。
聖母と大天使と一緒に公爵家の家紋付きの立派な馬車に乗り、目指すは女神様の待つ教会へ。
景色を見たかったのだけれど、カーテンをぴっちりと引かれている為、見る事は叶わなさそう。
窓のカーテンを見て、父を見て母を見たが許可は下りなかった。
ふうっと溜息を吐いた私に、お父様が「まだデビュー前だからね」と諭してきた。
なんでも高位貴族の令嬢は、お茶会などでの高位貴族同士の集まり内でなら顔を晒せるのだが、屋敷を出たら何に狙われるのか分からない為に、顔を隠すのだそう。
教会へと入る時も薄いベールを頭から被って移動するらしい。
デビュー前とは? と首を傾げた私にお母様が説明してくれた。
誘拐とかを警戒してるのかな…?と思うので、素直に頷いておいた。
こういう細かなルール的なのを講師は教えないんだなぁとぼんやり思う。
講師達が教えるのは国の成り立ちから貴族名鑑、周辺諸国の言語や歴史。
まだ弟が居ない為、領地経営とは的なのも習う。
領地を潤わせる為の政策や特産品の開発など、領主って結構いろいろやってるんだなっていうのを習った。
小学校の社会科の授業のような――――なんとなくそんな感じだった。
人々の暮らしとか、街の主力産業など習ったり遠足という名の視察に行かされた記憶。どこの世界でも似た教育ってあるんだなって思う。
教会へと到着すると、先に父が馬車から降り立ち母と私に手を貸してくれる。
ベールをしっかりと被って馬車から降り立った私は目の前の建物の大きさに呆然とした。
ギリシャ神話に出てくるような神殿もかくやな荘厳な佇まいである。
五階建てくらいだろうか? 結構な高さの建物を見上げ、神殿って儲かってるんだなーと下種な事を考えてしまった。
公爵家の馬車を見た神殿の神官らしき見た目の方が、慌てて近づいてきた。
「ファルメール公爵閣下! お待たせして申し訳ありませんっ」
酷く焦った顔をした神官らしき人。
父は別に怒ってなどいないというのに、大慌てだ。
「よい。突然の訪問なのだ、そのように慌てずとも難癖を付けるつもりなどないぞ。」
苦笑したお父様が、ぺこぺこと頭を下げる神官に告げた。
「…ご恩情に感謝致しますっ! で、では、恐れながらわたくしめが神殿へとご案内をさせて頂きます事を御赦し下さい。」
「宜しく頼む。」
そんなに畏まらないとならない身分なんだろうな…公爵って。
お父様の苦い表情がここまで畏まられる事への不快感を表していた。
しかし、その表情は一瞬で消え、優雅な大天使の笑みを薄く浮かべた。
余所行きのスマイルって感じだ。
「さぁ、リア、シア、こちらへ」
お母様と私へと両手を差し出すお父様。
(両手に花・・・なんてね。)
と内心思っていたら、「両手に天使。私はなんて幸福者なのだろうか。」と父が呟いていた。
お父様は自身の美しさなど一切気にかけていない。
母と私を天使だ天使だと愛で倒す。
天使というならお父様の方が天使感が強いと思うのだけれど。
まぁでも、お父様がこの世の春を詰め込んだような笑みを浮かべ満足気だからいいか。
神殿はたくさんの人でごった返している。
参拝する人が途切れる事なく次々に訪れている。
女神様が言ってた信仰心が篤いと言っていたけれど、本当の事みたいだ。
女神像の前にはたくさんの長椅子が設置されていた。
前世の教会の中と似た風景に、やはりどの世界でも似た様な設計になるのだなと思いつつ、父と母に挟まれるようにして座った。
両手を胸の前で組み、祈りのポーズをしたところで――――
目の前が真っ白になった。
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