四 赤い結末

「俺、生きてるのか……?」


 てっきり死んだかと思ったんですが、どうやらまだ生きてるんです。これまでと同じように目を覚ましただけなんですね。


 そうか……あの赤い車に撥ねれたら死ぬんだと思ってたけど、そうじゃなかったんだ……。


 てっきり死ぬんだと思い込んでいた自分の予想が外れ、ああ、よかったあ……と溜息を吐いたその時。


〝命拾いしたな……〟


 そんなしわがれた男の声が、A君の耳もとで聞こえたんです。


 その声に思わずそちらを振り向くと、すぐ横にあの赤い男が、自分の顔を覗き込むようにして座ってるんだ。


 A君、そのまま気を失って、朝もだいぶ遅くなってから、寝坊していると思った母親の起こす声で目を覚ましたそうです……。


 まあ、それ以来、もう二度とあの赤い車の夢を見ることはなくなったんですがね、それから数日が過ぎたある日、ふと自分の通学用カバンに下げている御守りを見たA君は唖然としたそうです。


 その御守りは小さな頃からよくお参りに行っている、近所のお寺でいただいた交通安全のものなんですがね、ビニール製のケースで覆われてて、その中に紙のお札と小さなお地蔵様の木像が入ってるんです。


 でも、いつそんな風になってしまったのか、見ればそのお地蔵様の首がポキンと折れてるんですよ。もちろん今までそんなことなかったのに。


 当然、A君、あの夢の中で見た〝首なし地蔵〟のことが頭を過ぎったんですね。


 どうにも気になったんで、A君はまたインターネットで首なし地蔵について調べてみたんです。


 そうしたら、〝首なし地蔵〟っていう名前からしてちょっと怖いですし、首から上がない姿をしていますから、現代人にとってはちょっと不気味なイメージがあると思うんですがね、実はそうじゃない。本当は怖いものじゃないんです。


 むしろその逆で、お地蔵様ってのはご自分が身代わりになって、人間の苦しみを代わりに受け取ってくださる仏様で、首がないお地蔵様は首から上の病や怪我に御利益があるんですね。


 それにそもそもお地蔵様は土地の守り神で、事故の多い場所に祀られたりと交通安全の仏様でもあるんです。


 A君、あの赤い車に撥ねれても命が助かったのは、この御守りのお地蔵が身代わりになってくれたからじゃないか……と思ったんだそうです。


 そして、あの赤い男の〝命拾いしたな〟という言葉を思い出すと、もしも地蔵様の御守りがなかったら、いったい自分はどうなっていたんだろう? と、今でも背筋に冷たいものを感じるそうですよ。


                          (火車 了)

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火車 平中なごん @HiranakaNagon

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