三 赤い男
もしそうだとしたら、あの赤い車や運転している赤い男はいったいなんなのか?
気になったA君は、もうその頃にはすでに普及していたインターネットで、関連しそうなキーワードを入力して検索してみたんですね。
すると、〝赤い車〟や〝赤い男〟では目ぼしいものに当たらなかったんですが、〝車〟と〝死〟という二つのワードで検索をかけたところ、〝火車〟という妖怪を解説したページが出てきたんです。
それによるとこの〝火車〟っていう妖怪、獄卒――つまり、地獄で亡者を責め苛む鬼が
また、お葬式の際に強い風が吹いて葬列の棺が吹き飛ばされることがあると、これも火車のせいだと
この〝火車〟のことを知ってA君、ああ、あの赤い車のことだ……って、直感的に思ったんですね。
赤色ってのもなんだか燃え盛る
だとすれば、病院にあの車がいたのも亡くなった入院患者の魂を迎えに来ていたのかもしれない……あの運転してる赤い男は地獄の鬼…いや、いうなれば
そして、あの日、偶然にも男と目が合ってしまったので、火車に取り憑かれてしまったんだとしたら……。
そうするとA君、いっそう自分が抱いた不安を確信するようになったんですね。
つまり、夢の中であの車に撥ね飛ばされたら、現実でも本当に命を落としてしまうんだと……。
それでも、相変わらず夜眠ると必ずあの赤い車の夢を見てしまうんだ。しかも、毎晩々〃、徐々に徐々に追い詰められていっているような気がする……。
追突されそうになるのを避けるため、その度にA君、横道へ逸れて逃げていたんですが、気がつけばだんだんだんだんと、次第に細い路地へ入って行ってしまってるんですね。
「…ハァ…ハァ…うわぁっ…!」
その夜の夢でも車に追いつかれたA君は、目に入った家と家の隙間へ慌てて飛び込み、そのままひと一人が通れるような裏路地を抜けて、その向こうの通りへと出たんです。
「…はぁ……なんとか逃げきれたか……」
今通って来た裏路地は狭すぎて、さすがにあの車も追って来れませんからね。遠回りしてくるにしてもしばらく時間がかかります。
とりあえず一安心とA君は安堵の溜息を吐いたんですが、油断は禁物ですからね。今の内にとまた小走りにその路地を進み始めたんです。
「……え? ちょっと待てよ、これ、マズくないか?」
でも、しばらく進んだところで、A君、しまった! と気づいたんだそうです。
ふと見ればその道の先、行き止まりになってるんですよ。
しかも、両脇には長屋のような古い民家が立ち並んでいて、車一台ぐらいしか通れない狭さなんです。
つまり、今、反対の側から赤い車が現れたらもう逃げ場がないわけだ。
さっき逃げてきた家と家の隙間のように、脇へ避けるような場所もない……反対側へ道を引き返すのも、途中で車と鉢合わせする可能性だってある。
おい、どうすりゃいいんだよ……と躊躇している内にも、遠くでブルン…ブルウウン…! とエンジンの音が聞こえるんですね。
「ハッ…!」
と振り向くと、行き止まりじゃない方の側を行った先で、角を曲がってあの赤い車が現れたんですね。
「ひぃぃっ! …ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…」
遠回りして現れた車は、シャー…っと物凄いスピードで狭いその路地を突進してくる……このままじゃ確実に跳ね飛ばされて終わりですよ。
でも、他に逃げ場はないんで咄嗟にA君、とにかく行き止まりの方へと全力で走ったんです。
つまり、今、反対の側から赤い車が現れたらもう逃げ場がないわけだ。
さっき逃げてきた家と家の隙間のように、脇へ避けるような場所もない……反対側へ道を引き返すのも、途中で車と鉢合わせする可能性だってある。
おい、どうすりゃいいんだよ……と躊躇している内にも、遠くでブルン…ブルウウン…! とエンジンの音が聞こえるんですね。
「ハッ…!」
と振り向くと、行き止まりじゃない方の側を行った先で、角を曲がってあの赤い車が現れたんですね。
「ひぃぃっ! …ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…」
遠回りして現れた車は、シャー…っと物凄いスピードで狭いその路地を突進してくる……このままじゃ確実に跳ね飛ばされて終わりですよ。
でも、他に逃げ場はないんで咄嗟にA君、とにかく行き止まりの方へと全力で走ったんです。
すると、その行き止まりには小さな祠が一つ立っているんですね。なんだろうと覗き込んでみたA君……。
「ひっ…!」
また全身の血の気が引くような衝撃を覚えて、その恰好のまま固まっちゃったんですね。
なぜかって? その祠の中に入っていたのは首のない石のお地蔵様だったんです。
そんな壊れそうもない頑丈な石造りなのに、首の所でボキリと折れて、その頭はどこにも見当たらないんだ。
うわぁ、気味悪いなあ…と思ったんですが、 よくよく考えればそんなこと思ってる場合じゃないですよ。
チラッと振り返れば猛烈な勢いで車は容赦なく突っ込んでくる。
「ひいいっ…なんまいだぶう! なんまいだぶう…!」
もう逃げ場はどこにもないんで、まさに最後の神頼みとばかりに、A君、なんだか不気味には感じたんですが、そのお地蔵様を必死に拝んだんです。
「…なんまいだぶう! なんまいだぶう…なんまいだぶう! なんまいだぶう…!」
必死にお地蔵を拝むA君ですが、背後からはブウウン…ブウウウウン…!と、大きなエンジン音を響かせてなおも車が迫って来るのがわかるんです。
「…なんまいだぶう! なんまいだぶう……」
その気配と恐怖に思わず振り返ったA君の目に、すぐそばまで迫っていた車の運転席で、あの赤づくめの男のニヤリと笑う顔か映った瞬間。
「ひいいっ…!」
ガシャァアアアーン…! と大きな音が鳴り響いて、A君の視界は暗転しました。
「……ハッ! ……ハァ…ハァ…ハァ…ハァ……」
気がつくと、いつものように全身汗びっしょりで、ベッドの上に寝ていたそうです。
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