第4話 選ばれた人間


 ずいぶん目に慣れた空間だ。小さな光が存在してるけど、壁も床も天井も、全部茶色の土に覆われた洞窟のようなところだった。


 道は前と後ろ二つだけで周りとは違ってそこには光が存在せず見えなかった。風も全く感じられなかったのでどっちが出口につながれているのかすらわからなかった。


 そもそもあるのだろうか?


「こんにちは。命知らずのおもちゃ野郎。」


 懐にいたナイフを出して声が聞こえてきた方向に向けた。


「誰だ。」


「僕は第1世界の神であるヘルオスといいます。よろしく~」


 姿を現した男の声は、さっき門から流れてた声と一致していた。


 見た目はただのピエロだ。真っ白な仮面のほっぺにはそれぞれ涙と星が押されていて、二つに分かれた長い帽子は少しくらい紫だ。


 服装も紫と黄色が混ざった派手な奴を着ている。


 こいつが、神……?そういや人間とは何かが違う感じがした。


 うまく説明できないけど、そこに存在するという感じが人間とも、動物とも、モノとも完全に違っていた。


「第1世界の神ってことは…… あんたがすべての参加者、アドベンチャーを第2世界に案内するというあの存在なのか?」


「その通りです。有名というのはこんな時楽ですね。」


「…… あんたが本当にそんな存在なら、この女に見覚えあるか?」


 マリアと一緒に撮った写真を見せてあげる。4年前に撮った写真だからもし見たら区別するのに問題はないはずだ。


 写真を見たピエロが少し考えるふりをして、首をうなずいた。


「見覚えありますね。およそ2年ほど前かな?簡単な案内を受けて第2の世界に上って行きました。」


「その女!その女が今どこにいるか知ってるか?!」


「それは知りませんよ~ 僕はあくまでも第1世界の神ですからね。契約を交わしてない以上ほかのアドベンチャーの行方は見れませんから。」


 …… そう簡単に探せるとは最初から思ってなかったけど、見たっていう返事に期待感が高まってしまった。失望感が倍となる。


「どうやら人を探すためにディスゲームに参加したみたいですね。」


「そうだ。」


「あの方がここに来たってことは確かです。だから、探したいのなら上を目指してください。少なくとも下で見るよりはずっと探しやすいはずです。人も、すべても。」


 そういったピエロがパチンと手をたたいた。


「それでは神との契約やステータスについて説明いたします。僕については知っていましたけどこれについても知ってるんですか?えーと……」


「……ジンだ。ジン・クラベイ。契約については知ってる。でも俺は神託を、神と契約できる器はもらってないんだ。だからステータスやほかのについてだけ説明してくれ。」


「はい?」


 第1世界は神が現身できる特集な空間であり、アドベンチャーたちのスタート時点なだけにすべての神々が視野を共有できる唯一の世界だった。


 偉大なる神様たちはヘルオスの目を通じてその人間の性格と潜在能力をすべて見ることができて、もしその人間が気に入ったのなら契約書を差し出し、人間はそのうちの一つを選ぶことになる。


 契約した神が自分の一挙手一投足を見れるようになる代わりに、人間は契約した神の力を使えるようになるんだけど、これをスキルと呼ぶ。


 火を吐いたり空を飛んだり。動物を操ったり幻覚を見せるようになったり。よく魔法と呼ぶものを使えるようになるのだ。


 だが…… 神と契約するためには本来暮らしていた世界の神が与える神託、つまり器が必要だった。これがいなければ神と契約することもできないし、当然スキルも使えない。


 覚悟はできていた。たとえスキルが使えなくとも…… 俺は必ず上に上がってマリアを探し出すんだ。必ず。


 そんな俺をボーと見つめていたピエロの神様は、首を少し傾き頭の上に疑問符を浮かばせた。


「何を言ってるのかわかりませんね。ジン様はすでに神との契約が済んでいる状態なんですが?」


「…………は?」


「正確に言うと器をもらう前に契約が済みましたね。こんなこともあるんだな~」


 何を言ってるのかわからないのはこっちだ。神との契約がすでに済んでいると?俺が?契約しただと?


「どういうことだ。」


「直接見たほうが理解しやすいはずです。どうせステータスもあげなければダメですからね。ホイッ。」


 ピエロが指の先で額をトンと叩いた。その瞬間、体の中に何かが流れ込んで軽く体を再構成する感じがした。


 なんだ今の……?


「ステータスとはあなたの能力値を見せる画面を意味します。ステータスオープンと叫んでみてください。」


「……ステータスオープン。」


 彼の言う通り小さくつぶやくと目の前に青く光る画面が現れた。


 ジン・クラベイ

 年 : 23歳 種族 : 人間族

 ステータス

 筋力 : 96

 魔力 : 75

 敏捷 : 118

 精神力 : 58

 防御力 : 36

 契約 : ネリエル

 スキル : 【見剣みつるぎLV1】

 コスト : 0


 これが俺の能力値、ステータス。比較する対象がないから高いのか低いのかわからないけど、ピエロの言う通り俺はネリエルという神と契約している状態だった。


 聞いたこともない神だ。そもそも器ですらもらったことがないのに、どうなってるんだ?


「ジン様は順番が逆です。知ってる通り本来なら神から器を受けた後契約をするべきなんですが、ジン様は契約が済んでしまったから器をもらえなかったんです。」


「そんな場合もあるのか?」


「僕も初めて見ました。本来ならあってもならないですし。ゲームというのはルールが守られないと面白くないでしょ?でもまぁ…… この場合はネリエル様のご選択ですから仕方ないですけどね。」


「は?なんでそのネリエルって神は特別扱いなんだ?」


「ネリエル様は106、107、108世界を支配している絶対神だからです。」


「!??!?!!」


 108世界って…… 世界の果てじゃねえか。そんな神が俺と契約をしただと?


「絶対神は僕たち神々よりも一段階上にいらっしゃるお方なので不満を持つのはできないのです。人間社会で言うと社会生活、でしょうかね?あ!ちなみにネリエルとはあの方が持っている3つの名前の中で2番目のお名前です。」


「そのネリエルって神がなんで俺と契約したか、いつ契約したとかは……」


「もちろん知りません。」


 そりゃそうだろうな。俺自身ですら見当もつかない。


 でも、これはまさに願ってもないもうけ物だった。


「じゃあこの見剣ってスキルは何だ?これは説明できるよな?」


「そんなに急がないでください。一つ一つ順番に説明しますから。まずはステータスから始めますね。他のはあえて説明しなくてもわかると思うので一番下のコストって文字に注目してください。」


 再びステータス画面を開いて彼の言う通りコストって書かれた文字を眺めた。すると0と書かれていたコストが1万に変わる。


「それはディスゲームの中でクエストをクリアすれば神たちが与える補償です。すべての世界で貨幣として使えるし、自分のステータスを上げるときも使えられます。何でもいいです。一つ能力値を1あげてみてください。」


 少し悩んで、2千ポイント使って敏捷を1上げた。


 軽く体を動かしてみたけど特に変わりは感じられなかった。コストがまた0に戻りピエロが言った。


「1ポイントは赤子くらいの差しか出ません。でもこれが集まって10ポイントになったら成人一人分の能力値になります。ディスゲームには次の世界に行けるメインクエストだけではなく、その時神が勝手に与えるサブクエストもありますのでステータスのためにもこれを最大限クリアしながら進むことをお勧めします。」


 次はインベントリです、と指は一つを投げてくれる。


「ゲームによく出るものですよね?その指輪をはめてインベントリオープンて叫んだらなんでも収納できる画面が出てきます。ちなみに中には人が作った言語なら何でも翻訳できる翻訳装置とタイマーつけの時計が入っていますので失わないように気を付けてくださいね。」


 そういいながらも「また買えますから失っても心配はしないでください。」と突き加えた。


 ステータスとは違う黒い画面が現れる。ゲームというものをそんなにやってみたことはないが、いくつに分かれたスペースがあってその中に物を入れて置けるってことはすぐ理解した。


「最後はお聞きしてたスキルです。ネリエル様のスキルを説明できるチャンスはあまりないから僕も楽しいですね。」


 パッチン!と指を鳴らすと光が届かなかった暗いところに明かりがついて、鉄窓で作られた壁が姿を現した。


 その中には白いゴリラが一匹入られていた。普通のゴリラの4、5倍は巨大だし、怒ってるみたいに胸をたたきながらわめいていた。


「あれは…… まさか巨獣?」


「第4世界からいらっしゃったんですから、第4世界に住んでる奴で試すのが楽ですよね?あいつを見ながらスキルを使うって考えてください。」


 それだけでいいのか?言われた通りゴリラを眺めながら見剣スキルを使うって考えてみた。


「……?!」


 巨獣ゴリラ

 年 : 28歳 種族 : ゴリラ

 ステータス

 筋力 : 202

 魔力 : 13

 敏捷 : 99

 精神力 : 62

 防御力 : 101

 スキル : 【なし】


 なんだこれ…… あのくそゴリラの…… ステータス?


「ネリエル様はすべてを知っている知恵の神様です。そしてそんなネリエル様の見剣スキルは相手のステータスを知ることができる能力です。それだけではなく持っているスキルがどんな効果を持っているのかまで知ることができます。」


「そんなの…… ただの反則じゃねえか……」


 俺は見れるのに相手は見れないなんて、まさに反則だ。それだけではなくスキルの能力まで知ることができるのなら初めて見る相手でも注意できるし、対処できるし、破壊法まで知ることができる。


「スキルのレベルはいっぱい使えば自動的に上がります。そしてほかのスキルはスキル獲得条件をクリアすれば得ることができます。ステータスとは違ってこれは見れないんですけど、あくまでも普通の人々の話であってジン様は見剣を使えばいつでも見れるはずですよ。」


 聞けば聞くほど反則だったのでちょっとあきれる。まさに神の知恵て言葉にふさわしいチートスキルだ。なんでこんなすごい神と自分が契約することになったのかさらに疑問だ。


 パッチン!とまたピエロが指を鳴らすと明かりが消えて巨獣ゴリラの姿も消える。


 正直戦うことになると思ってた。


「説明は以上になりますが。もっと聞きたいことはありますか?」


「聞きたいことがなければ、俺はこのまま第2世界に上ることになるのか?」


「そうですね。あ!でもクエストがすぐ始まったりはしないはずです。ほかの参加者の方々はまだ説明が終わってませんので。もしすべての方々が第2世界に上ったら~」


 <メインクエスト : チュートリアル>


 難易度 : F

 内容 : ヘルオスの説明を全部聞く

 時間制限 : なし

 クリア補償 : 1000コスト

 状態 : 進行中


「こんな画面が現れますので、覚えていてください。」


「…… 人間のことが好きみたいだな、あんた。たかだか人間に説明も親切だし、説明を聞いただけの奴に1000コストもくれるし。」


「人間が好きというよりは説明するのが好きなんです。何度やっても飽きないんですよね~」


 神々は遊戯にくるってるだけにみんな性格がおかしいと聞いたんだが、確かにその通りかもしれない。


 こんな説明が面白いなんて、俺だったら二回以上はできない。


 聞きたいことがないと答えるとクエストの状態画面が進行中から成功に変わった。そして闇に包まれていた後ろの空間が門が開かれる音とともに光を吹き出した。


 ここが2世界に上がれる道か?軽く深呼吸する。


 2世界からは、本当に命取りになるはずだ。きっとたくさんのじゃまがあるはずだし、時間もかかるだろう。いくらチートの神と契約したとしても、人間死ぬときは死ぬもんだ。


「そうだとしても、お前に会うまでは絶対しなね。マリア。」


 あえて口から出すことで自分に気合を入れた後、光の中に向かって進んだ。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「………もう静かにしましょうよ~ 残念なのはわかるけど方法がないじゃ~ん。」


 ネリエルと契約した人間が2世界に旅立って、その場に残されたヘルオスは後ろに向けてそういった。


 そこに存在するのは―― 無数の目、目、目。


 数えることすらできないほどの目玉たちが2世界に続かれる門を眺めていた。


 服が破れて、肉の皮がはがされて、全身がずたずたに裂かれたまま細胞一つ一つまで透視されるような圧倒的な視線。


 全部、神と呼ばれる奴らの目だった。


 どいつもこいつも自分と契約させたかったとわめいている。その中にはディスゲームを最初にクリアして、今はジ・オリジンと呼ばれている人間どもと契約した神たちもいた。


 その人間と契約したネリエルの姿は見えなかった。


 そりゃまぁ、本人はもう契約したからあえてここで見る必要がない。


「さぁさあ~ 去ったもの欲しがらないで。契約が済んでないおもちゃならたくさん残っていますから。そっちに集中してください。」


 やっと一つ二つあきらめ始める。だが、それでも残念さに悪態を放つ奴がいれば、未練がましく門を見つめながらため息を吐くやつもいた。


 正直わからないわけでもない。クラベイという名前もそうだけど…… ネリエルが目を付けたってことがあまりにも魅力的だったから。

 しかも2年前にここにきたその女は、マリア・グレースだ。

 探している女が彼女ならさらに目が行くはずだ。


「ジン・クラベイ、か……」


 彼をもう一度思い出してみる。その目、その覚悟、その心意気…… クラベイとネリエルという要素を除いても、相当魅力的なおもちゃだった。


 ヘルオスの仮面の口が、ニイーと裂ける


「そうだな面白そうぅ…… 残念だね本当に~」


 遊戯に狂った神は、残念が込まれた笑い声を出しながら闇の中に消えていった。

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