第298話 わたくしごとですみません

 ベテルギウスを見る度に、涙が出る。自分の記憶から消える事の無い


小さい頃から知っていて、成長して色々話した友達の事が、頭から離れない。


私に起きた事も酷かった。遺産分配も無かった。私はもう闇の底に落ち続けていた。


だから、殆ど抵抗も出来ず、仲介者も面倒だから、それで終わった。


惨すぎるの一言に尽きる。絶対にあってはいけない事が、平然と行われている。


それが表に出る事は決して無い。出たとしても、私のように敗北するだろう。


あいつが、親父さんに宣告された時の様子は、手に取るようにはわかるが


気持ちも他の誰よりもわかるが、それ以上に辛かった事しかわからない。


気が狂いそうになる世界だ。しかも死んでも平然としている。


だからあの兄弟も、言葉にならない。


兄は私と同じ年齢だった。当時、私が親に聞いたら「塾をやめたみたい」としか


言わなかった。弟もきていた。でも弟もいなくなった。


一体どんな気持ちだったろうかと、普通の人には絶対に感じることが出来ない気持ち


が私はどの程度、理解できているのだろうか。私はその兄弟以上に酷い仕打ちは受け


続けたが、限界には個人差がある。だから気持ちは多少なりとも理解できる。


小学生にして、首を吊るなんて、考えても考えても、彼が辛かった気持ちしかわから


ない。弟は一年後の同日に首を吊った。ある意味、苦痛しかない人生であっただろう


から、助かったとも言える。


だが、同級生のあいつは、一体どんな気持ちで受け止めたのだろう。


現実は辛い。映画やドラマよりも、カットされているのも私たちの世界にはある。


ドラマや映画では実際1%ほど理解できるくらいだろう。


現実は惨すぎる。本当に惨い。あいつは今も毎日変わる事の無い日々を送っているだ


ろう。無理せず、自殺した方が良かったと思う。跡継ぎの為だけに幼い頃から辛い


世界で生きてきたのに、何も知らない社員たちからは、精神障碍者だと言われてい


る。そうした当の本人は、自責の念がない。だから平然と、それが言える。


誰にも知られず、私たちは生きている。私は幼い頃からの防衛本能で何とかなったが


永遠に死ぬまで、あいつも私も理解を得られず、本物の苦悩と苦痛の世界でいる。


あいつにも友達は多かった。だから私が帰った時に、多くの友人たちが私に話してみ


て欲しいと言って来た。皆は何故彼らああなったか知らないし、理解もできないだろ


う。私は彼に一度は会えた。だが二回目に会いに行った時に、小さな公園の石のベン


チで、たった一人で昼食を取っていた。彼は背も高く、ソフトボールもやっていたが


何もかも禁止され、壊れていった。との壊れていく途中では何度も会った。


だけど、公園に座っている彼は、ものすごく小さく見えた。私は涙が落ちたほどもう


手遅れだと感じた。だから声もかけることが出来なかった。声をかけたところで、


言葉が見つからなかった。彼の状況は知ってはいた。あそこまで酷くなっているとは


微塵にも思わなかった。彼は精神的にも非常に強かったからだ。


その時は私はまだ知らなかった。本当の闇を知らなかった。今も知ってはいるが


私なりの方法で、それは封印した。でも完全じゃないから悲しみが残っているのだろ


うと私は思う。かれらの事を、私が忘れる事は無いだろう。


並みの事程度なら問題はないが、いや、まだ人生は十分に残っている。そして私は再


び昔よりも強くなってきている。封印した事は思い出す事はないが、昔よりも人間ら


しくなってきている。今は私にしか出来ない事をしていこうと思っている。


だからここは踏ん張りどころだ。力をつけて彼だけでも助けてあげたい。



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