第4話 憤怒
貴方は神に怒りを感じたことはありますか?
自分をまたは周囲の人間を救わない。罪人に罰を与えることも無い。理不尽な不幸を無くそうともしない。
神がいるなら何故私を裁かない。
俺は小さい頃から悪というものを許すことが決して出来なかった。ルールを破る人間対しては容赦することなく戦い抜いた。
たとえどんなに小さい罪だろうと俺は正義の怒りを抑えることが出来なかった。だから子供の頃から多くの人に疎まれていた。それでも、数は少いものの俺に賛同してくれる人もいたし、そんな俺を大人達は褒めてくれていた。
しかし、中学生以降あたりからそんな人達も私から離れていった。
「いい加減に頭を冷やして考えろ。」
「潔癖すぎるんだよ。」
「お前の言う正義は自分ためだけのものだろう。」
救った人や良き理解者とも言えた友人からも俺を否定する言葉が日に日に多くなっていった。
「お前はもっと協調性を持ちなさい。」
「何でそんなに融通が融通が利かないんだ。」
俺を誇りと言った親も、真面目で真っ直ぐな子と褒めてくれた先生も俺を否定した。
ある時、俺は俺の筆記用具を悪ふざけでゴミ箱に捨てたクラスメイトを殴って怪我をさせた。俺は謹慎処分にされた。
納得がいかなかった。何で罪を裁いた俺がより重い罰を受けなければいけないんだ。この理不尽は何だ。狂いそうなぐらい怒りの炎が燃え上がった。
しかし、どうすることもできず無理やり怒りを飲み込むことしかできなかった。それからしばらくはできる限り周りの言う普通に合わせて過ごしていたが日に日に怒りの炎は燃え上がっていった。
自分の身近なことだけでない。ニュースなどで見るありとあらゆる理不尽に俺は怒りの炎を燃やし続けた。悪人には罰がくだると幼い頃は言われてきたがそんなものは無い。神はただ傍観するだけだと俺は絶望していた。
それ以降はまれに手が出てしまうことはあったが俺は何とか周りに合わせて生活をしていた。だがある時取り返しのつかないことを仕出かしてしまった。
俺の財布をすろうとした犯人と言い合いになり、殺してしまったのだ。幸いにも人気の無い路地裏に行ってから暴力沙汰になったこともあり目撃者はいないのだが時間の問題だろう。
俺はどうして良いか分からずその場で呆然としてしまっていた。
突然、後ろに何者かの気配を感じふり返った。そこには裂けそうなぐらいに口の端を吊り上げて笑う神父がいた。
「何見てやがる。」
俺は動揺しながら叫んだ。
「落ち着いてください。私は貴方の真の賛同者ですよ。
「ふざけているのか。」
「いえいえ、ふざけてなどいませんよ。私は貴方の行為を心の底から賞賛しているのです。罪人は罰が必要です。しかし、この世にはそれを受けずに野放しにされている罪人が多すぎる。」
「結局、お前は何が言いたい?俺をおちょくっているのか?」
「私を貴方の協力者にしてもらえないでしょうか?神に代わってこの世に蔓延る罪人に罰を与える神聖なお役目の手伝いをさせてはもらえないでしょうか?」
狂っている。だがそれは俺にとっては物凄く魅力的に感じた。そうだこの世は罪人が好き勝手にやり過ぎている。誰かがそれを裁き正しく整えなければならない。
「この死体も何とかできるのか?」
「貴方がこれからも私の期待に応えてくれるのでしたらおやすい御用ですよ。」
こうして俺はこの謎の神父である
鳴神は俺に使われなくなった教会を隠れ家として与えた。元は星の何とかというカルト教団が使っていたものだったらしい。俺はそこで罪人達を拷問しながら殺すようになっていった。
万引の前科が有るものは腕を生きたまま切り落とし失血死させ、煙草のポイ捨てをしたやつは生きたまま焼殺し、盗撮犯なら目をくり抜き頭に釘を打こみながら殺したりした。時には拷問に何日もかけてから殺す事もあった。
鳴神がどう上手いことやっているのかはわからないが警察が俺にたどり着くことは無かった。またヤツの情報は優れていて罪人を探すのに苦労するということも無かった。
俺は自分の考えた地獄を罪人達に見せることができた。
ある日、鳴神は悪趣味な人形を教会に置いていった。髪が長く綺麗な顔立ちをした人形だったが、よくできているだけにどこか不気味でたまらなかった。ヤツがここに置いて欲しいと頼まなければ壊して捨てていただろう。鳴神が何でこんな人形をわざわざ持ってきたのか不思議にも思ったが、この無表情の人形が罪人達に恐怖を与える一つの要因なればいいかと俺は深くは考えなかった。
その数日後俺はいよいよ最も憤りを感じていた両親に手を出すことを決めた。今まではさすがに身近な人物は足がつきそうだと思い手を出していなかったのだが、鳴神の力は本物だとこの頃になると確信していた。俺を裏切った罪は計り知れない。俺は考えられる限りの拷問を与えた。
爪を剥ぐ、目をくり抜く、火であぶる、脚を潰す、窒息死寸前まで顔を水に押し付けるのを繰り返すなど様々な遊びをした。
助けを求める声も、俺を罵る声も、理不尽を訴える声も、神に祈る声も俺にとっては愉快で堪らなく今まで以上に下品な笑みがこぼれた。
不意に激痛が俺を襲った。気がつくと蛇の様な怪物が俺の頭あたりに噛み付いていた。それに気がついた瞬間その化け物は俺の頭から狼のような怪物を引きずり出していき鳴神の置いたあの無表情の人形の中に消えていった。
俺は全身に力が入らなくなり、その場に崩れ落ちた。自分がもうすぐ死ぬのだろうと自覚する。わけが分からないほどの苦痛と恐怖に襲われる中これが俺への罰かとようやく真っ当な裁きが訪れたことに喜びを感じた。
最後の瞬間あの無表情な人形が笑った様な気がした。
4話完 憤怒
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