25日目 ステッキ
通勤電車で、白い杖をつく人を見かけた。冷たい冬の雨が降る日で、私も傘を持っていたからだろうか、かつん、かつんという音が耳に残る。他のたくさんの乗客も傘の音をたてているのは変わらないのに、その人の音はどこか違う。
雨に苛立つ人々がたてる、やはり苛立っていながらも急いでいて単調な音とは違い、明らかに迷って困っている音だった。
「あのう、何かお困りですか?」
「盲の者じゃったか、感心感心」
少しだけ遅刻します、という電話を切った私に、鞄の中から小さな声が届く。ポケットにちょこなんと収まっているおじいちゃんに笑いかけ、私は何も答えない。
ほんの少しだけ勇気を振り絞って声をかけただけだ。案内が上手だったとは言えない。正しかったのかは分からない。それでも、少しだけ自分が良い人間になれた気がする。
誰にも見てもらわなくてもよかったけど、お礼を言ってもらえて、褒めてくれる人もいた。世界はこんなにも素晴らしい。
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