18日目 旬

 旬のものがおいしい、という感覚は大人になってからやっと分かった。秋の旬は特においしい。付喪神たちに言わせれば、人間のノスタルジーや哀愁といった思いが秋の旬だろうか。

「飛行機雲は秋の季語だぜ、お嬢ちゃん」

「……それ、本当?」

 いや、嘘だけど、と平然とした表情(?)で紙飛行機は答える。

「秋晴れの空には紙飛行機が似合うだろう。寒空はちと居心地が悪そうだ。旬のうちに、どこか遠くに飛ばしておくれ」

 紙飛行機の声を聞くようになって何度も繰り返された言葉だったけれど、なんだか今日は耳に障った。流星群として落ちる星々に、飛んで頼りなくひらひら落ちていく紙飛行機を重ねたのかもしれない。

「どうして、そんなこと言うのよ。せっかくこうしてお話できるようになったんだから、もう少し一緒にいてくれてもいいじゃない」

「おいおい、お嬢ちゃんは俺がいなくなったら寂しいのか?」

 どきりとすることを言われて、思わずかっとなった。

「ばか、もう知らない」

 全くもって、子供じみてる。こんなに怒るようなことじゃない。自分でも、どうしてこんなに思ったのかよく分からない。お昼の先輩との話が尾を引いているのかもしれない。

 いつものように、布団にくるまって知らんぷりを決め込むと、同居人たちのひそひそ声がそっと届いた。

「なんであんなに怒るんだ?」

「女心は秋の空、と言うじゃろ。あれも旬のうちよ」

 勝手なことを言う。むかむかとこみ上げる思いと戦っていると、このような負の感情でさえ、誰かに思われることは彼らの栄養になるのだろうかと、ふと思った。

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