17日目 流星群

「えっ、先輩結婚されてたんですか」

 そうだよ、と先輩はあっけらかんと頷く。長いこと個食が続いたけれど、アクリル板越しに昼食を共にするようになって少し経つ。先輩の指にはなにもない。アクリル板が曇っているせいでは、さすがにないだろう。

「指輪って苦手で、あんまり付けないから知らない人も多いけどね」

 私の視線を追って先輩は続ける。今日も今日とて、傘は子供用。なにを考えているのかよく分からない表情で、他の人たちからヒソヒソ噂話をされているのもなんのその、ふわふわいつも通り仕事をしている。

「だから今日は、娘も連れて流星群見に行くんだ」

「えっお子さんも!?」

 いるよ、と同じ調子で先輩は微笑む。この人はたった二つ年上で、中学生の時から変わり者だとヒソヒソされていた。それがまあ、そんな、どうして、というなんだかよく分からない気持ちで、私は箸をぎゅっと握る。

「あなたも見てみたら? 田舎だから、たぶん家でもいくらかは見れるんじゃないかな」

 それから、一拍置いて。

「良かったら一緒に行く?」

 田舎だから。私も先輩も知っている。家が近くて周りに街灯も少ないこと。先輩は、私が一人で暮らしていることも知っているはずだ。

「いえ、私、目が悪いから」

 下手くそな言い訳をして断ると、先輩は気にした様子もなく頷いた。きっと家族で楽しく流れ星を探すのだろう。想像できるような、お母さんやってる先輩は想像しにくいような。

 目を伏せ、軽く閉じると瞳の裏をたくさんの星が流れていく。その中に両親もいる。

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