16日目 水の

 水で洗い物をするのが辛くなってきた。お湯でじゃぶじゃぶ洗いたくなるけれど、手荒れがひどくなるし、古い家なのでプロパンガスなのだ。ガス代もばかにならない。

 母はゴム手袋を使っていたけれど、私はどうもあの感覚が好きになれなくて、手をかじかませながらお皿を洗う。その後、ハンドクリームを塗り込んでいると、テーブルの上に無造作に置いた紙飛行機が話しかけてきた。

「そうしてると、お母さんによく似てる」

 紙飛行機から両親の話を出されたのは初めてだったので、びっくりして手が止まった。

「そうかな」

「そうだよ」

 父が作った紙飛行機にそう言われると、父にそう言われているような気が……さすがにしない、しないです。気分的にそう盛り上がろうかとも思ったけど、どこからどう見ても紙飛行機で、父とは声も性格も違う。

「ねえ、今更だけど、あなたはいつから、そうして私たちを見ていたの?」

「本当に今更だな」

 こんなふうに斜に構えた物言いをする人は、我が家にはいなかった。けれど彼は、我が家の人間に思われて付喪神になったと言う。外に出たがる彼と、この家が好きな彼とどちらが本当なのかとふと思った。

「お父さんに作られたその日からだよ。じいさんも言ってただろう。赤ん坊のように、はじめの方はボンヤリした記憶だけれど、それからゆっくり俺も成長したのさ」

 まあ、早熟なほうだったけどねと自慢げに笑う。

 家族の誰とも似ていない紙飛行機だけど、実際この性格で存在しているということは、私たちのどこかに彼の要素が潜んでいたのだろう。両親の知らない面を、この先二度と見られないと思っていた新たな側面を見た気がして、なんとなく複雑だった。

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