14日目 裏腹
雨だったから、とその日先輩は例の傘を持っていた。子供用のチープな、けれど彼女にとっては大切な傘。
堂々とそれを持ち歩ける彼女と、大切な……と言えなくもない同居人である、鍵と紙飛行機をこそこそ隠して暮らしている私の差を思い、なんとなく複雑な気持ちになった。
「だから、俺を連れてけって言ってるだろう、お嬢ちゃん」
その日の出来事を紙飛行機相手に鍵と一緒に語る、というよく分からない状況がなんだか日常の一部になってきた。
父が折った紙飛行機は、制作から何年経っても先がピンととがっている。よく飛ぶように、反りが入った羽をどういう原理か分からないがひらひら動かすと、オーバーアクションで腕を振っているようにも見える。
「俺を連れてって、どこか高いところから飛ばしてくれ。そうしたらお嬢ちゃんも晴れて変人呼ばわりされる仲間入りさ」
「待ってよ、あなた、飛ばして欲しかったの?」
おどろいて皿洗いから顔を上げると、彼は肩(?)をすくめて見せた。
「飛ばねえ紙飛行機はただの紙飛行機だろ」
「……結局のところ、紙飛行機でしかないと思うが」
鍵のおじいちゃんの冷静な指摘に、紙飛行機は少し怒った様子で言い返した。
「じいさんはまだいいよ、鍵として何十年かは生きたんだろ。俺は飛ばして遊ぶために生まれた紙飛行機なのに、まだ飛んだことがないんだぜ」
強い語調とは裏腹に、寂しそうな本心が透けて見える。その原因は私にあるので、なんとなく後ろめたくて私は皿洗いに戻った。
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