11日目 からりと

 私と彼女がカフェで話している間、おじいちゃんはアンティークアイテム然として鞄にぶら下がっていた。聞いているのかいないのかよく分からない。

 いずれにせよ人目が多いところで動くような愚を犯すおじいちゃんではない。別れて、バスに乗って降りてから、ひっそり辿る家路でようやく私は口を開く。

「おじいちゃんは、どんなふうに付喪神になったの?」

 真鍮色の鍵は返事をしなかった。おじいちゃんなりに、他人に目撃されたことを反省しているのかもしれない。私も気にしなかった。

 玄関の前で、いつものように家の鍵を求めて鞄の中をがさごそ探る。鞄の中を整理した方がよい、とおじいちゃんに注意されたけど、私は私の習慣を変えられそうにない。

「人の赤子と同じよ。ただ、意識を持って、自我が芽生えて、思考するようになるまで人間より時間がかかるだけじゃ。おぬしが探しておるその鍵も鞄も、何もかも、未熟ながらわしらと同じ存在なのだ」

 私はぴたりと手を止めた。おじいちゃんの声は妙に淡々としている。古い蔵の鍵として生き、蔵が取り壊されてからは鍵としての役目を失い、私ならばもう少し湿っぽい性格になっていると思うけど、おじいちゃんはいつもからりと乾いている。

「……八百万の神様、っていうやつ?」

 左様、とおじいちゃんは目を細め、つるりと丸い顎(?)を撫でた。

「先輩の傘みたいに、ものを大切にしろって話?」

「現代は消費社会じゃろうて。できる限りで構わんよ」

 物分かりの良い老人らしくそう答え、おじいちゃんは鞄のふちから中をのぞき込み、そこじゃそこじゃと私に鍵のありかを示してくれた。

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