9日目 神隠し

 小さな街に昔から住んでいるので、いくら人とあまり関わりを持たない私でも顔見知りや知人はいくらか存在する。職場に昔の先輩がいることも知っていたし、その先輩が昔神隠しにあったという噂がある人だということも分かっていた。

「ねえ、あなたの鍵って、もしかして動くの?」

 だけど、突然そんなことを言われて心臓が飛び出るかと思った。心臓は出なかったけれど、実際少し飛び上がっておどろいた。

「ええと、その」

 こういう時、スマートにごまかせないから昔から私はどんくさいと小突かれてきたのだ。頭の中は、どうしよう、おじいちゃんのドジ、私の妄想じゃなかったのか、からかって聞いてるんじゃないの? でもこの人もけっこう変わり者って聞くし……と思考の洪水だ。

 私の動揺を見て取り、その人はふっと笑った。なぜかしら安心できるような、落ち着いた笑みだった。

「あのね、私の傘も、時々喋るの」

 そうしてとんでもないことを言った。私が目を白黒させていると、続ける。

「私が神隠しにあったとき、助けてくれた傘なのよ」

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