8日目 金木犀

 紙飛行機は、風に吹かれるのが好きである。彼なりに、風に乗って飛びたいという本能があるのだろうか。

 天気が良いので窓を開けて風を通していると、金木犀の香りがふわり流れ込んできた。

 紙飛行機はとがった鼻をくんくんとピクつかせる。鼻……当たり前のように鼻と思っていたけど、匂いを嗅いでいると言うことは本当に鼻だったのか。

「ねえ、貴方はおじいちゃんみたいな手足はないの?」

 ふと疑問に思って聞いてみる。この紙飛行機は、やたら私に外に連れ出せと言ってくるけど、そもそもおじいちゃんのように手足があれば自分で行ったり来たりできるはずだ。

「うん? まあ、俺はまだまだ若輩者だからなあ」

「おじいちゃんくらい年季が入れば、生えてくるってこと?」

「それもあるし、まあ、どんな使われ方をしたか、どんなふうに付喪神になるまでの時間を過ごしたかにもよるよ」

 紙飛行機は、眩しそうに目を細めて窓際でうとうと船を漕ぐおじいちゃんを見つめる。珍しい表情に私は少しおどろいた。

「俺はまあ、この家で、この家の人に思われてきたからね」

 だから毎年、金木犀が咲くのが好きなんだ、と紙飛行機は続けた。

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