7日目 引き潮

 人間関係は波とよく似ていると思う。私は人と関係性を築くのが得意でないので、寄せては返す波に翻弄される、いわばボートだった。

「笹舟じゃろうて」

「……なんでそんなひどいこと言うの?」

 お風呂上がりに化粧水をつけ全身の保湿をしながらぽつりぽつり思ったことを話していると、おじいちゃんから辛辣なツッコミが入った。

 古い蔵の鍵だったおじいちゃん。蔵が取り壊されてからはアンティークアイテムとしてあちこち回ったというだけはある観察眼と世間ずれした感性を持っていて、職場の私の様子を鞄の横からじっと見ている。つまり、私が失敗したり、仕事を押しつけられたり、愛想笑いしているところを見ているのだ。

「もう少し自分の意志という物を持たんと、苦労するのはおぬし自身じゃぞ」

「いいんだよ、お嬢ちゃんは昔からそうなんだから」

 父が折った紙飛行機の付喪神である彼は、強い言葉の割に意外と私に甘い。彼を作った父の手から私への思いが流れ込んだのかもしれない。

 昔から、人よりは動物や想像上の友達と仲良くなる方が得意だった。もしかするとこのふたり(?)の付喪神も、私の想像上の存在でしかないのかもしれない、とふと思う。

 がさがさのかかとにクリームを塗り込みながら、私を現実へ押し戻す波と、どこか知らないところへ連れて行こうとする潮流との間で、ゆらゆらと揺れている。

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