6日目 どんぐり
休日だったので、古い鍵と紙飛行機を連れて近所の公園に散歩に出かけた。感染症の脅威も下火になりにけり、以前より人が増えてきた気がする。
それでも、職場に紙飛行機を連れて行くよりはハードルが低い。真夏に使うビニールバックに紙飛行機と鍵を入れて、私は機嫌良く歩いていた。
「わしらが言うことでもないが、おぬし、結構神経が太い方じゃのう」
「このお嬢ちゃんは昔からそうだったぜ」
この声は果たして私以外には聞こえていないのだろうか。確かめるすべを私は持たない。返事をしてしまえばどう考えてもおかしい人で、いくら神経が太くてもご近所の目を全く気にしないわけではない。私は鞄の中の二人に曖昧な笑顔を向けた。
「俺がこうして付喪神になれてる以上、悪い子じゃないんだけどね」
私が意見や反論しないのをいいことに、二人は盛り上がっている。数日前に初めて言葉を交わした紙飛行機が、昔から私を知る親戚のおじさんのように、おじいちゃんのような鍵に訳知り顔で話している。
――くしゅん、とくしゃみが出た。暖かい日が続くので油断してしまいがちだけど、少し日が陰ると随分寒い。寝癖隠しの帽子を深く被り直すと、バックの中からくしゅん、と同じような音が届いた。
「――おじいちゃん、寒いの?」
付喪神も風邪をひくのだろうか。確かに、金属製の鍵は身体(?)が冷えやすかろう、とは思うけど。
「わしもおぬしのような帽子が欲しいのう。ほれ、あれをとってはくれまいか」
「あれって、どれ?」
あれじゃ、あれと要領を得ないおじいちゃんだったが、何度か繰り返してようやく地面に落ちているどんぐりを示していることに気がついた。かわいらしくて、思わず顔がほころぶ。
「良い帽子じゃ」
どんぐりの帽子をかぶせてやると、おじいちゃんは満足げに微笑んだ。
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