第6話「呑気な男」<ウィルマ視点>

「た……大変ですウィルマ様!」

「なんだ、騒々しい」


 朝の『日課』を終えて着替えが終わった瞬間、見張りの兵士が飛び込んできた。

 ベッドの上には僕の愛を一身に受け、疲れ果てて眠るメイドがいる。

 彼女に布団を被せて兵士の視線を遮りつつ、僕は報告を聞いた。


「はぁ……は、かっ」


 何をそんなに焦っているのか、兵士は過呼吸になりかけていた。

 精鋭を揃えたつもりだけど、やはり何割かはこういった出来損ないが紛れ込んでしまう。

 そこは仕方ない、と割り切るしかない。


「おら、さっさと用件を言わないか」

「ごふっ、お……」


 領主たる僕が蹴りで気合いを入れてやると、兵士はようやく話し始めた。



 内容は至極簡単。

 先日、婚約破棄したあの女の姉が訪ねてきているという。


「ルビィに姉が居たとは初耳だな」


 いや、聞いたかも知れない。

 けど興味がないので、どういう人物かはまるで知らなかった。


 ルビィと僕の領地の間にある山。彼女を妻に迎えることで、その利権を一挙に掌握できる。

 そういった見地でしか結婚を見ていなかったため、相手の家族構成なんて気にも留めていなかった。

 当然姉と会ったこともないし、挨拶をされるような関係でもない。


 となると――逆恨みか。


「で?」

「それが……そのお方、実は聖じょっ!?」


 裏拳をめり込ませると、兵士はもんどり打って床を転がった。


「暴れるな。部屋が汚れてしまうだろうが」


 そいつの腹を二、三度ほど体重を乗せて踏みつけ、大人しくさせる。


「聞きたいのはそうじゃない。お前の主は誰だ?」

「あ、あなた様です……」

「そうだろう。なのにどうして侵入者の伝言をノコノコ伝えに来ている?」

「それは……」


 貴族の屋敷への侵入は重罪。即刻斬り捨てるべし――それが暗黙のルールだ。

 こいつはそれを怠り、侵入者の伝令に従じている。


 なんという役立たず。命令違反者として今ここで斬り捨ててやりたいくらいだ。

 しかし、慈しみの心に溢れた僕はそれをしない。

 たとえ部下が失態を犯したとしても、それを許すことのできる心の広い人間だからだ。


 我ながら甘いと思いつつも、やはり締めるところは締めなければならない。


「すぐに殺してこい」

「ウィルマ様、お聞きください。彼女は聖ぶご!?」

「『侵入者を排除しました』 それ以外の報告は不要だ。クビになりたいのか」

「……了解、しました」


 深く頭を下げ、兵士は部屋を退出した。


「全く、できない部下を持つと苦労が増えるよ」


 兵士と入れ替わるようにして、メイドが朝食を運んできた。

 彼女も僕のお気に入りだ。

 ――というより、いま屋敷にいるメイドは全員、僕のお気に入りだ。

 父の代から長年働いていた年嵩のメイドはみんな解雇した。


 何が悲しくて母親と同年代の女に世話されなければならないのか。

 僕の視界に入って良いのは若くて可愛らしいメイドだけだ。


「さて、朝食を頂こうかな」


 食事に手を伸ばすフリをして、メイドの胸部で揺れる果実に手を伸ばす。


「もう……ウィルマ様ったら。さっきまでお盛んだったのでは?」

「僕が本気を出せば、一日何回でも可能さ。試してみるかい?」

「あんっ♪」


 手をするりと服の隙間に入れると、彼女はとろんとした目で僕を見つめてきた。


「さてと――いただきます」

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