第7話「メイドに隠れる者」
見張りやウィルマお抱えの私兵をちぎっては投げ……を繰り返しているうち、玄関前まで辿り着いた。
所要時間は三十分ほど。
「どれだけ広いの……」
肉体的な疲労は無いけれど、思わずそう吐かずにはいられない。
戦うことなく真っ直ぐ歩いてきたとしても、ここまでは十分以上かかっている。
もし、ルビィが婚約破棄されずにこの家に居たとしたら。
どちらかと言うと内向的なあの子のことだから、この距離を嫌がって外に出ることも億劫になっていたかもしれない。
庭の広さに比例するように、屋敷もとにかく巨大だ。
外からざっと見ただけでも膨大な数の部屋がある。
しらみつぶしに探すのは骨が折れてしまう。
その辺の見張りを捕まえて聞き出すか……。
「お邪魔しまーす」
聖女パンチでドアを
左右に広がる廊下には等間隔で高そうな壺や銅像が並べられている。中央には五人同時に歩いてもまだ余裕のある階段があり、その先は左右に分かれて二階の部屋に続いているようだ。
広いことを除けば、割とオーソドックスな貴族の屋敷然とした造りになっている。
少し気になったのが、中にいる人間が女性――メイドしかいないということ。
執事とメイドの割合はその家の主人の嗜好によって多少変化はあるが、ここまで偏っているのは珍しい。
メイドの服装もそうだ。
実家のメイドと比べると彼女たちの衣装はやけにフリフリが多く、胸元が大きく開いている。
加えてメイドたちは全員、年齢がかなり若い。
新たに領主となった貴族ならまだしも、ウィルマが治めるセオドーラ領は古くからある土地だ。
平均年齢は相当、上になるのが当然なのだけれど、そうではないところを見ると……。
「なるほど。毎夜可愛いメイドさんをとっかえひっかえ……ってところかしら」
「あ、あの……あなたは?」
おっかなびっくり、おかっぱのメイドさんが話しかけてくる。
できれば関わりたくない、という感情がありありと見て取れた。
「騒がせちゃってごめんなさい。ウィルマはどこ?」
私が前のめりになって尋ねると、メイドさんは面白いくらいに震えながら階段を差した。
なるほど、上ね。
「どうもありがとう――
「ッ!」
メイドさんの目の色が変わる。
殺意と、それに慣れ親しんだ者の目だ。
「全員、やれ!」
「効かないわ」
方々から飛んできたナイフを【武器破壊】で粉々にしながら、素早く敵となる人数を確認する。
最初のおかっぱを合わせて、全部で五人。
どうやらメイドの中にも私兵が紛れているようだ。
外の連中とは違い、屋敷に居ても違和感がないよう普段は可愛らしいメイドを演じている……というところか。
おかっぱのメイドが、鋭い視線を向けながら問いかけてきた。
「なぜ我々に気付いた?」
「ウチにも似たような子がいてね。その子に見分け方を教えてもらったの」
メイドと暗殺者の見分け方。
メイザにそれを聞いた時は『絶対に使いどころのないムダ知識』だと思っていたけれど、それがまさかこんなところで役に立つとは思わなかった。
……帰ったら、あの子にお礼をしないと。
「よく見破ったと褒めてあげたいところだけど……この人数差を前に、いつまで余裕ぶっていられるかしら?」
暗殺メイド達はその声を合図に、私を取り囲んで部屋のあちこちを移動し始めた。
「ウィルマ様に仇なす不届き者め! ここで惨めに死ね!」
彼女たちの動きは速い。
おそらく、相当な訓練を積んだ本物だ。
それが五人同時。一対一ならまだしも、全員の動きを把握するのは不可能だ。
「これじゃあ、どこを攻撃すればいいのか分からないわ」
私の弱気な発言を受け取ってか、高らかに笑うメイドたち。
「はっはっは! 全方位からくる波状攻撃にいつまで耐えられるかな!?」
「だったら、全部攻撃すれば解決ね」
「はっはっは! は――なに?」
メイドの口上は、途中で疑問符に化けた。
それを無視して行動を開始する。
「【外結界】【内結界】」
まず暗殺メイド全員の外に結界を張る。
次に、それより内側にもう一枚結界を張る
これで封殺完了。
彼女たちは、どこを移動しようと結界の『中』にいることになる。
あとは、徐々に結界同士の距離を狭めていけば――いずれ彼女たちは動けなくなる。
「な、なによこれ!」
「壁……見えない壁があるわ!」
「だんだん狭くなっていく!?」
メイド達がそれぞれの反応を示す。
中には結界を破ろうとする者もいた。
「この……この、このぉぉぉ!」
しかし、びくともしない。
聖女の力を用いて作られた結界は通常のそれとは全く別次元の強度を誇る。
暴れるメイド達に、私は勝利を宣言する。
「無駄よ。一個の人間が国を覆う結界を壊せると思う?」
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