沈丁花の季節に死んでいないということ

 夏に死んだ人の夢を見た。

 夏に死んだあの人と、夏に死んだあの人は、私に死んでほしかった。

 母が私に謝った。

「最後に頼みを聞いた」という。

 夏に死んだあの人の頼みを聞いたという。

 何が望みだったのかと問うと、私に会うことだったと答えた。

 殺されるかもしれぬ、と思ったことはあったが、会いたいと思われているとは思えなかった。

 私があの人とあの人に会うことはなく、見送ることもなかった。

 悔いはないがやるせなく、安堵というには苦かった。

 言葉にする日はまだ遠く、午睡の夢に見るには長い。

 この春私は生きている。

 何も語らず、冬に死ななかったものの匂いに鼻をすすり。

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見た夢の話する ciza6sfeuc/白澤カンナ @ciza6sfeuc

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