承諾してないんだから承諾するんじゃないよ

 今日は手の痛い夢を見た。

 ゲームでいうところのFPS視点で、私の手は男の手になっていた。

 何らかの危機にあり何かしら誰かしらに追われていたさなか、少女が「一生樹脂の指でいい?」と問うてきたのでうなずいた。

 いいわけねえだろ。


 どの指だったか指の根本を縛り、指先から根本へ何度か強くしごくと血流が止まり白くなった。

 白くなった指をごりごりと落とし、少女は指に私の名前ではない夢の中の名前を書くと「猫を見たら助けてあげて。7匹いるから。××側に寄ってはだめ。巻き込まれるから」と告げて去っていった。


 デパートのバックヤードの階段を駆け下りていた。

 手は痛くない。

 たまにドアに張り付き、向こう側の何かしら誰かしらをやり過ごしながら地下に向かう。

 地下には広い駐車場があった。

 駐車場を徒歩で抜ける。

 出口に向かって歩いていると、幅跳びで飛び越えられそうな深さ1mほどの溝があった。


 溝には段ボールやら生ゴミやらが乱雑に捨て置かれていた。

 溝には猫がいたので身を乗り出して一匹ずつ拾い上げては縁に並べてやった。

 そんなところに置いたらまた落ちてしまうじゃないか。

 7匹いたかは覚えていない。

 5匹は助けたような気がするから7匹いたかもしれない。


 そうこうしていると後ろから車が来た。

 運転手は見えないが敵対者なのはわかる。

 そういう夢なので。

 逃げる夢なので。

 なかなかのスピードで車は溝に突っ込み、溝の端、壁際で回転する粉砕機に破砕されていった。

 私はよいしょ、と溝に降り向こう側に行くとまた歩き出した。

 猫は置いてきた。


 いつの間にか男の手の私は駐車場を抜け、資材置き場にいた。

 なぜか血の気の抜けた肌の色の指サックがあったので、落とされた指のあった場所にはめた。

「樹脂じゃないじゃん」

 とつぶやいた。


 指サックの指になった男の手の私は広場にいた。

 女が駆け寄ってきて抱きついて泣いていた。

 FPSカメラ固定は解除され、女と抱き合う男の手の私だった男の全身像を眺めていた。

 私は男の手の私ではなくなっていた。

 男は私ではなくなっていた。


 そのへんで目が覚めたので男が一生指サックの指(樹脂じゃないじゃん)で過ごしたのかはわからない。

 とても疲れる夢だった。

 階段をたくさん駆け下りて逃げ回ったので。

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