見た夢の話する

ciza6sfeuc/白澤カンナ

女は膝に男の首を抱いている

 女は膝に男の首を抱いている。

 男は何人も殺してきたのだという。

 女は目を伏せ、男の首を愛おしげに撫でさする。

 男の頸には鋏の開いた刃が突き立っている。

 女は泣きも笑いもしない。

 男は口を開いたり閉じたりする。その度、鋏が揺れ動く。

 女は鋏を抜こうともしない。


 可哀想にしてあげたんですよ、と男は云う。

 私にはあの人たちの気持ちがわかりましたからね、と。

 叶えてあげたんですよ。

 皆が見てくれて、皆が覚えてくれて、皆が思い出してくれるでしょう、と。

 あの人たちは見てほしかったんですからね、と。

 男は嘯くでもなくただ云う。


 この人は私を見つけたんです、と女は云う。

 私は見てほしかった、と。

 誰も女の姿を視ることも、声を聴くことも、香を嗅ぐこともできないのだという。

 私は塵より容易くいなくなる。いえ、いようとしなければいることすらできないのです、と。

 女は嘆くでもなくただ云う。


 夢があったんですよ、と男は云う。

 誰も私を見つけてはくれませんでしたからね。皆、私を探して追いかけるのに。

 なのに誰も私をみない。彼らは私が可哀想にしてあげた人たちのことしか見ない。

 私のおかげであの人たちは消えないのに。

 私も見てほしかった。覚えてほしかった。


 切実だったのです。と、女は云う。

 消えない為の助けが欲しかった。

 この人と目が合ったときはほんとうに夢のようでした。私を見つけられる者がいたなんて。

 人の娘が落ちる恋とはこのようなものでしょうか。

 私にはわかりませんけれど。

 私はこの人を隠そうと思いました。


男は云う。

女は云う。

私は見つけてほしかった、と。

私は見ていてほしかった、と。

そのとき私は幸せだった、と。

女は云う。

私は幸せでいたかった、と。

男は云う。

私は幸せの先へいきたかった、と。

女は云う。

男は云う。

わかってくれるに違いないと思ったんです、と。



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