第21話 集落の縁日・2日目

ニャーコ宅に戻り、ライオネスさんとティガーさんに経緯を話して聞かせた。

「ほぅ、そうかそうか」

「良かったな、ニャーコ。お前ずっと言ってたもんな、森の端はどうなってるんだろ、って」

俺の旅にニャーコが同行すると伝えると、そんな反応が返ってきた。

どうやらニャーコが旅に出るのは時間の問題だったのかもしれないな。

そして話題が次に移ると、またも騒然となった。

「ウマシカの内臓だと!」

「ワォー!スゲェ、マジか!」

クーラーボックスから取り出された内蔵を見て、二人とも目がギラギラしている。

ライオネスさんは秘蔵の酒を引っ張り出して来て、二人で内臓をアテに酒盛りを始めてしまった。

俺も誘われたが、生で食えないというと「こんな美味い物が食えないなんて、可哀そうに」とめっちゃ同情された。


スノーさんとサーバルさんが夕食の支度をしていたので、獣人族の食事がどんなものか見せてもらった。

薄く切った生肉に香草を載せたものや、筋や軟骨を細かく刻んだものなどであった。なんだか刺身とかネギトロみたいな感じだな。ちなみに肉はライオネスさん達が狩ってきたものだ。

味付けは岩塩を爪でガリガリ削って振り掛けていた。

俺も一緒にどうかと誘われたが、食中毒が怖いので遠慮した。

「それじゃ俺は自分で作って食べて来るので」

と言って外に出ると、ニャーコとパルドが付いてきた。

「なんで付いてくるんだ?」

「ケンジが何作るのかな、って」「そうそう」

「味見はさせてやるが、ちゃんと帰って夕飯を食べろよ。折角スノーさんが用意してるんだから」

「「はぁーい」」

ニャーコのやつ、朝は食べ過ぎてひっくり返ってたからなぁ。


夕食は手軽にできるミックス焼きにした。

ボウルに生地と刻んだ具材を入れて、混ぜたものを鉄板で焼くだけだ。

ジューと良い音がする。

「これ、どこに火があるの?」

「鉄板の下だ。こっちから見れるぞ」

ニャーコの疑問に答えると、二人が屋台の中に入って来て、俺の隣でしゃがみ込むと台の下をのぞき込んだ。

「あ、本当だ。何か青く光ってるね」

「青い火なんてあるの?」

二人は戸惑っている様子だ。

「ああ。それも火だぞ。色々と工夫すると、緑とか黄色とか、いろんな色の火を作れるんだぞ」

「「へぇ~」」

なんて話をしている内に焼きあがる。

ソースを塗って、マヨネーズで線を描き、かつお節と青のりを掛ければ完成!

ヘラで小さく切って、紙皿に載せてやる。

「ほれ、味見してみろ」

二人は待ちきれないとばかりにそれを口に入れた。

「あふあふ、ほ、ほれわ」「ハフハフ、う、美味い!」

熱い物は食べ慣れていないだろうに、夢中で食べているな。

「朝食べたのと全然違うけど、これも凄く美味しいね!これも好き!」

「すっげぇ、いろんな味がするし、良い匂いだし、ニンゲンっていつもこんなの食ってるの!?」

「いつもって訳じゃないが、まあそうだな。料理によって、いろんな味や香りを楽しめるぞ」

「ニンゲンすげぇ!」

パルドはすっかり虜になったしまったようだな。…大丈夫か?


ふと気づくと、屋台の周りにキラリと光る眼がいくつも並んでいた。どうやら集落の住人達に囲まれているようだ。

「何やら良い匂いがすると思って来てみれば」

「頼む!俺にも食わせてくれ!」

「これ!今日獲った肉と交換でどうだ?」

と詰め寄ってくる。

「ちょっと待て。分かった、分かった。そうだな。何か価値のある物を持ってくれば交換するよ。食材でも何でもいいぞ。まずはアンタのその肉と交換しよう」

「やった!」「よし、家に戻って取ってくる!」

周囲で一斉に動き出したのが分かった。気配を消すのも忘れているようだ。

う~ん、俺の夕食のつもりだったんだがなぁ。


結局、ニャーコにも焼くのを手伝ってもらい、合計で100枚くらい焼く羽目になった。

「うぁー、えらい目に遭った」

「ニャハハ、アタシは楽しかったよ」

ニャーコは初めてやった料理が楽しかったようだ。

呑み込みが早くて、焼くだけじゃなく、材料を切ったり混ぜたりもすぐに覚えてしまった。

「ケンジの分はアタシが焼いてあげるね」

お客(?)が途切れてから、ようやく俺は夕食にありついた。

ニャーコの焼いたミックス焼きは格別に美味く感じた。

…既に俺より上手だな。


◇◆◇


「起きろー、ケンジ!」

「うぅん、ああ、パルドか」

身体をゆすられて目が覚めた。どうやらパルドが俺を起こしてくれたらしい。

昨日はあれからニャーコ宅に戻り、パルドにねだられて森の外の話をしてたのだが、その途中で彼は眠ってしまった。

「話の続きを聞かせてくれよ」

寝起き早々には無理だ。勘弁してくれ。

「こらパルド。先に朝ごはんにしなさい」

見かねたスノーさんがパルドを止めてくれた。

起きたのは俺が最後だったようだ。ライオネスさんやティガーさんは既に朝飯を食べている。

軽くあいさつ交わし、周囲を見回す。

ニャーコはいないみたいだな。

「ああ、ニャーコなら旅の支度をするって言って出かけてるわ」

俺の様子を見てサーバルさんが教えてくれた。

礼を言って、俺は顔を洗うために外に出る。


空き地でお好み焼き屋台を出すと、調理台の水道でバシャバシャと顔を洗った。

すると、屋台を見て住人が何人か集まって来た。

「また美味しいもん作るのかい?」

毛足の長い男性が話しかけて来た。

「いや、今はやらないよ。悪いね」

「そうか。あれは美味しかったからなぁ、また頼むよ」

「ああ、その時はよろしくな」

それを聞いた他の住人達もそれぞれ期待の言葉をかけて去っていった。

う~ん、こりゃ出発前にもう一度くらいは営業しなきゃならないか。


午前中はパルドに森の外の話をするだけで潰れた。

その間にニャーコは旅に必要なバッグや水筒、雨具などを調達してくれていたらしい。

一般人にとってこの森の中を泊りがけで移動する機会はほとんど無いらしく、行商人や物好きな旅人以外だとそう言う道具は持っていないのが当たり前だと言う。

それでも、集落に何人かは昔旅をした経験者がいて、お古の道具を譲ってもらえたそうだ。

「ケンジのためなら、って快く譲ってくれたよ」

どうやら、昨日の屋台で子供たちが喜んでたからという理由らしい。情けは人の為ならず、という奴だな。

一応これで出発準備はできたわけだが、俺が今夜もう一度屋台を開きたいということで、出発は明日になった。


その日は午後のまだ明るい時間帯から屋台を開き、射的とくじ引き、そしてウマシカ肉の串焼きを1人1本限定で配った。ニャーコとパルド、サーバルさんも手伝ってくれた。

陽が落ちると、お好み焼き屋台を開き、今夜は広島風のいつものお好み焼きを焼いて、無料で振舞った。

無料だと言ってるのだが、住人たちは何かしら持ってきて「いいからいいから、貰っとけ」と言って押し付けていく。

やはりお肉が多かったが、何かの動物の牙を加工した飾りや、果物、香草、お酒なんかももらった。

「おお!これは美味いな!昨日は食いそびれたから、気になってたんだよ」

「昨日は酒飲んで早々に寝ちまったからな」

今日はライオネスさんとティガーさんも食べに来た。


多分、集落の人が全員集まったんじゃないか、とニャーコは言っていた。こんな賑やかな夜は初めてだ、とも。

図らずも、俺はこの集落で初となる”お祭り”を開いてしまったようだ。

テキ屋冥利に尽きるというものだ。

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