第19話 集落への道中

「でもこんなにうるさいと、森のみんながびっくりしちゃうニャ。下手すると厄介な奴を呼び寄せちゃうかも」

「そうなんだよなぁ。とは言え、これが俺の唯一の武器…」

『ケンジ様。お忘れですか?』

(え?何だっけ)

『せっかくプランタイプSを契約したのに、よもやお忘れとは!およよ…』

(ああ、攻撃魔法か。そうだった。いや、自分で使ってる感じじゃないから、どうも俺の武器って実感が無いんだよな)

『それならいい機会です。練習してみましょう』

「よし。ちょっと攻撃魔法をつかってみるよ」

「今度はどんな魔法かニャ」

獣人は魔法とは無縁らしいので、ニャーコは魔法に興味津々のようだ。

(で、どうするんだ?)

『命中させたい場所に意識を集中し、<凍結短矢フリーズボルト>と念じてください』

(分かった。<凍結短矢>!)

すると、俺の目の前に透き通った氷でできた、太さが親指ほどで、15㎝程の長さの矢が現れ、すぐに目標とした木の枝に向かってヒュン!と飛び出して行った。

俺の目には留まらぬ速さで飛んで行き、見事に命中すると同時に、その枝にビシビシっと霜が付いた。

「ニャ!白くなった」

「凍ったからだな」

「コオった、って何?」

ニャーコがコテンと首を傾げている。言葉が通じなかったか?


「えーと、水を冷たくすると固まるだろ?あれを凍るって言うんだ」

「ニャハハ!水が固まるわけないよ。ケンジってば何言ってるニャ」

とニャーコは冗談だと思っている様子。

「もしかして、この森はそこまで寒くならないのか」

「ん?雨が降れば寒くなるよ」

ニャーコが不思議そうに答える。

つまり、その程度しか寒くならない、ってことか。まあ、創造神とやらが豊かな実りを約束した地なのだから、そう言う環境なのかもしれない。

「なるほどな。それなら、あの白くなったところに触ったらびっくりするぞ」

「そうなの?どれどれ」

彼女はそう言うと身軽に走って行って、木の幹を駆け上がると容易く凍った枝までたどり着く。

そして、霜の付いた所に手を伸ばすと…

「あ、冷た、ウニャッ!つめた~い!何これ!」

慌てて手を引っ込めてブンブンと振っている。

「どうだ、冷たいだろ。そのくらい冷やすと、水も固まるんだぞ」

「ニャー、泉の水なんかより全然冷たいね。あ、手が濡れた。クンクン…うん、確かにお水だね、これ」

その後もツンツンと凍った部分を触っていたニャーコだが、融けて手に付いた水を見てようやく信じたようだ。


ニャーコが戻って来てウマシカの解体をしている傍らで、俺は精霊から追加で攻撃魔法を教わる。森の中でも支障なく使えるように火属性は無しで、<電撃短矢ショックボルト>、<水晶短矢クリスタルボルト>、の2つを教わり、合計3種類の攻撃魔法を使えるようになった。

『ひとまずはこの3つで事足りるでしょう。必要とあればその場でいろいろな魔法をご提案しますので』

(ああ、頼んだ)

これで銃に代わる武器が手に入ったな。


そうこうしていると、ニャーコの方の解体もかなり進んでいて、毛皮の上に、部位毎に切り分けられた肉が並ぶ状態になっていた。

「手早いな」

「普通だよ。他の大人達はもっと早いんだから。それより、持って帰るのが問題だね。ケンジはどれだけ持てそう?」

「全部運んでやるよ。これで」

と言って、スキルの”クーラーボックス”を呼び出す。

「お~、箱?」

「ああ。食材を大量に入れておけるし、鮮度も保たれるんだ」

パカリと蓋を開けて見せると、外見からは想像できないほど広い空間が中に広がっている。

「ニャ!?どうなってるの、これ?」

ニャーコがクーラーボックスの外側と内側を何度も見比べて驚いている。分かる、分かるぞその気持ち。俺も最初はそうだった。


彼女が落ち着いた所で、肉をそのままクーラーボックスに詰め込んでいく。この中では、入れた物が完全に独立しているらしく、むき出しのままでも問題ない。

「この中に入れれば腐りにくいんだよね。それなら内臓も持って行こう」

ニャーコは草の上に放り出されていた内臓の山に向かうと、いくつかの部位を切り取ってクーラーボックスに仕舞っていった。

見た目はグロいが、ホルモンとかモツと考えればその美味さは想像がつく。

「普段は捨ててるのか?」

「うん。狩った人がその場で食べて、残りは捨てるんだ。だから、このクーラーボックス?ってのは凄いよ!これで集落のチビたちにも食べさせてあげられるニャ」

子供の獣人は狩りに行けないから、内臓を口にする事はないらしい。ニャーコも成人して初めて口にして、その美味さの虜になったそうだ。

毛皮に骨もついでに収納したが、まだまだ余裕がある。

蓋を閉めてスキルを解除すると、目の前からパッと消失する。

「ウニャ~、何度見ても不思議だニャ。これも魔法?」

「魔法じゃなくてスキルだが、まあ似たようなもんだな」

「”新しき民ニンゲン”って皆こんなことができるの?」

「あー、いや。俺は結構特殊な方だな。普通はここまで凄くはない」

なにせ希少な”固有職業ユニークジョブ”持ちだからなぁ。これを一般的な人間と思われても困る。

「やっぱり!ケンジが変なんだニャ!」

「変とか言うな」

心外な!

「ニャハハ、でもおかげで手ぶらで帰れるから、助かったニャー。ありがと、ケンジ」

「ハァ、どういたしまして」

俺たちは再び、ニャーコの先導で森の中を進み始めた。


「ほら、見えて来たよ」

俺の前を行くニャーコが前方を指さしている。

「んー?あれか」

木々の間から少しだけ遠くの景色が見えており、何やらテントのような物がチラリと見えた。

マップを見ると、少し先にちらほらと黄色の光点が集まっている。その数は10個に満たない程度だろうか。

「集落には何人くらいが住んでるんだ?」

「えーっと、20人くらいかニャ?ちゃんと数えたことないけど」

「て事は、今は出かけてるのか」

「ん?まーね。昼間は狩りに出ることが多いよ」

そんなことを話ながら歩いていると、マップ上の黄色の光点の一つがこちらに向かって移動し始めた。

ちらっとニャーコを見るに特に気にした様子は無いから、大丈夫だろう。

間もなくして、前方の木の陰からひょこっと小柄な人影が現れた。

「ニャーコ、お帰り!そっちの人は、旅人さん?」

「ただいま、パルド。旅人とはちょっと違うけど、こっちはケンジだよ」

現れたのは、ヒョウ柄の茶色い毛並みを持つ、恐らく子供の獣人だった。体形からは性別は分からないな。

「俺はケンジだ。よろしく、パルド」

「ねぇねぇ、ケンジはどこの部族なの?」

俺が答えようとすると、ニャーコが割り込んだ。

「はいはい、質問は後でね。まずは集落に入っちゃおう。パルドは母さんにお客さんだって伝えてきて」

「ちぇー。後で絶対教えてよね!」

そう言うとパルドは集落に向かって駆けて行った。


「今のパルドってのは?」

「弟だよ。正確には従弟だけど、集落の子供は皆兄弟みたいなものニャんだ」

道すがら聞いた所では、パルドは5歳だそうだ。それにしちゃデカいし、しっかりしてるな。

「獣人は大体こんなもんだよ。うちの部族は10歳で成人だし、他の部族じゃ5歳で成人、て所もあるらしいよ」

「え!?…ニャーコは何歳なんだ?」

「去年成人の儀をしたばかりだから、今年で11だニャ」

「マジか」

人間で言うと18歳くらいでもおかしくない外見なんだが、確かに成長スピードが違うようだな。

「そう言えば、ケンジは何歳?」

当然、ニャーコもそれが気になるよな。

「俺は今年で18だ」

「じゅーはち!」

驚いたのか、ニャーコは脚を止めてこっちを振り返る。

「ちなみに、人間は15歳で成人だ」

一応、こっちの世界の基準に合わせておいた。

「あぁ、そっかぁ。なら成人してそんなに経ってないんだ」

「そうだな。ニャントモ部族に換算すると、12歳くらいか」

「ニャンだ、やっぱり同い年くらいか~」

ニャーコはニャハハと笑うと意気揚々と歩き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る