第13話 俺たちの戦い
居合わせた重鎮たちは呆気に取られて固まっている。
「こ、こんな状況で商売をするのかね?」
町長は困惑しながらもなんとか言葉を絞り出した。
「まあ、それは言葉の綾だな。とにかく土地の使用許可が欲しいんだ」
俺は苦笑してそう答える。
町長は商業ギルドの長と顔を見合わせた後、頷いた。
「良いだろう、許可しよう。詳細は商業ギルドと話し合ってほしい」
「いや、この口約束だけで十分だ」
今のやり取りだけで、俺のスキル<ショバ管理>で町の周囲の土地を掌握できたのが分かった。
「ああ、それと今日の魔物との戦闘は俺たちテキ屋組が担当するから任せて欲しい」
「「「は?」」」」
重鎮たちが再びフリーズする。
今度はハンターギルド支部長のギルマースが真っ先に硬直から回復した。
「いやいや、ケンジ殿。いくら固有職業とは言え、戦闘職ではないのだろう?」
「戦闘に使えるスキルもあるんだよ。勝算は十分にある」
俺は、大まかにどんな事をするのか説明した。
重鎮たちは不安そうだが、他に手立てがあるわけでもない。藁にも縋る思いで俺たちに託すしかないのだ。
「分かった。何か協力できることがあれば遠慮なく言って欲しい」
町長はそう言うと、立ち上がって右手を差し出した。
俺はガッチリと握手をすると、挨拶もそこそこにその場を後にした。
◇◆◇◆◇◆◇
対策本部を出て神殿へ向かいながら精霊を呼ぶ。
『へいまいど』
(お前もだいぶ砕けたよな)
『毎朝、レベルアップ通知で通ってますからね。それで?』
(魔物退治をする事になった。コルク銃をどのくらい増やせる?)
『保留分を全部つぎ込めば100丁ですね』
(なら、35丁にしてくれ。それで全員に行きわたる)
神殿に住んでる元・”職無し”のほぼ全員を前線に投入するつもりだ。
『はいはい。他には?』
(う~ん、あ、おもちゃにオペラグラス追加だな)
『はいよ。まだ行けるよ』
(今回はこれで良いや。ありがとう)
『いえいえ。ところで、契約プラン変更はいかがですか?』
(ん?突然営業かよ)
『ケンジ様の魔力がかなり増えたので、生活魔法の使えるタイプLどころか、安全保障のタイプSでも契約できますよ。これから戦いに赴くならタイプSが断然おススメです!』
(タイプSってどんなの?)
『戦闘用の魔法が使えます。今なら全属性対応をサービス!大変お得ですよ。さらに、オプションの安心パックをセットで付けていただくと、自動防御と自動反撃、自動回復が常時有効になって、安全安心ですよ!』
(でもお高いんでしょう?)
『本日限りの特別価格!安心パック付きで、1日有効なお試し契約がなんと、たったの100魔力!今から1分間だけ受付中です、お急ぎください!』
(テレビショッピングかよ。まあいっか、お願いします)
『ありがとうございます!でも、冗談抜きで良いプランですから、ぜひ本契約もご検討を』
(分かった。今日が無事に終われば考えとくよ)
ちょうど神殿に到着した。
既に敵の増援の話は伝わっているようで、神殿も重たい空気に包まれていた。
マームさんに”職無し”を全員呼んでもらった。
「今日はお好み焼きと網焼きの担当者4名以外は全て、射的のコルク銃を使って魔物と戦ってもらう。この町を守れるのはもうお前たちしかいないからな、覚悟を決めてくれ!」
「「「はい!」」」
もっと慌てたり怯んだりするかと思ったが、全員気合が入った目をしている。うん、大丈夫だな。
それから細かい計画を聞かせて、3人ずつの組を作って行動させることにした。
「では行動開始だ」
「「「おー!」」」
33人11組のコルク銃を持ったテキ屋組が外壁の上に登る。東西と南の外壁にはそれぞれ1組ずつ配置し、残りを北側に配置した。
外壁上には俺たちの他に、ピロピロ笛を装備したハンターたちが待機している。彼らには北側以外の外壁を守ってもらう予定だ。
昨日と同様、壁の内側では住民の有志らが水笛を持って待機している。
遠くの平原に整列していた魔物たちが動き始めた。まだ魔法も届かないような遠距離なので、悠々と歩いて進軍中だ。
「全員、作戦通りにやれ。砲撃開始!」
俺の掛け声とともに、テキ屋組がコルク銃を構えた。その銃口には大きな楕円形の弾が装填されている。
バッシューン!
とあちこちで発射音が鳴り響き、大きな弾がシュー!と大きな音を立てながら物凄いスピードで飛んで行った。
3秒後、まだ遠くを歩いている魔物たちの先頭付近で盛大に土埃が巻き上がり、魔物が宙を舞う様子が見えた。狙いが逸れてかなり手前に着弾したり、逆に後列のデカい魔物に命中するものもあった。
少し遅れてドォン!ドォン!と轟音がこちらに届いた。
それを確認したテキ屋組が、次弾が自動装填されたコルク銃を構え、狙いを修正し、引き金を引く。
バッシューン!…ドォン!
この光景を壁上で見ていたハンター連中は口を開けてポカーンとしている。
「な、なんだあれは」「魔法より遠くまで届いてるぞ」「風属性の爆裂球みたいだが、火も見えたぞ。何の魔法だ?」
我に返るとワイワイと騒ぎ始めた。
今回、全員のコルク銃には、ロケット弾という戦車を吹っ飛ばすようなでっかい弾が装填される設定になっている。命中したら大爆発する奴だ。
本当は、ミサイルとかもっと威力のあるのを使いたかったのだが、「人が手に持って発射できる弾」じゃないとダメらしい。
着弾点が大体わかったので、そっからは連射だった。スキル機能で自動装填されるので弾切れもない。絶え間なく発射音が鳴り響き、遠方では盛大に黒煙が上がっている。
もはや着弾点より向こうの様子がうかがえない程だ。
しかし、魔物たちもやられてばかりじゃなかった。その土煙を突破して走ってくる魔物が出て来たのだ。
作戦は次の段階に進む。
3人組の内1名がコルク銃の弾をライフル弾に変更する。事前に各自で弾の切り替えができるよう、権限を設定しておいた。
ダダダン!ダダダダッ!
自動装填のおかげでコルク銃は機関銃と化す。地面にパパパッと着弾による土煙が一直線に伸びていき、延長上にいた魔物が血しぶきを上げて倒れた。
突進してくる魔物の数は多く、たった8名の機銃掃射では防ぎきれない。かと言ってロケット弾による弾幕を減らすわけにもいかない。
とうとう、俺の視力でも魔物の表情がはっきりと分かる程度まで接近を許してしまった。
しかし、これも想定内だ。
「俺のショバで勝手は許さねぇ。”ショバ治安維持”」
突進してくる魔物の前方にガタイの良い黒服が、空中から滲み出すようにして出現する。魔物は勢いを止めずに突っ込んでくるが、黒服とすれ違ったと思った瞬間、魔物は宙を一回転して地面にたたきつけられた。
俺の目では何をしているのか分からなかったが、周囲のハンターからは「見事な体捌きだ」「あれは相当な達人だ」などと声が上がっていた。
魔物1体に付き黒服も一人ずつ出現したので、同様の光景があちこちで繰り広げられた。
ただ、黒服は相手を無力化するだけで、殺す機能を持っていない。
しかし、俺のスキルを使えば簡単だ。
「ショバ代はお前らの命だ。”ショバ代徴収”」
すると、倒れた魔物たちがジタバタともがき始める。その魔物たちの胸元を内側から何かが突き破って飛び出してきた。それは宙を飛んで俺の足元に集まっていく。
淡く光る石、魔結晶だ。
魔結晶を失った魔物たちは動きを止め、二度と動かなくなった。
魔結晶は金目の物なので、ショバ代徴収の対象にできる。
そして、魔物は体内の魔結晶を失うと絶命する、と言うわけだ。
「なるほど、これがケンジ殿の切り札と言うわけか。魔物はひとたまりもないな」
側で見ていたギルマースさんが肩をすくめていた。
魔物の進路上にロケット弾による弾幕を張り、それを突破しても機銃掃射が待ち受け、最後は俺のスキル<ショバ管理>の合わせ技で確実に仕留める。
これが俺たちの作戦だ。
町の北側から接近できないと考えたのだろう、魔物たちが迂回して東西から町を目指そうとし始めた。
しかし、東西の壁上にいるテキ屋組がロケット弾と機銃掃射でなぎ倒す。
たとえ撃ち漏らしても、俺のショバ管理には死角が無い。範囲内に魔物が入ればすぐに分かるから、黒服で迎撃してショバ代徴収で終わりだ。
結局、壁上のハンターたちに持たせたピロピロ笛の出番はなかった。
壁に到達する魔物が皆無だったためだ。
そんな楽勝の戦闘が続き、昼を迎えた頃、突如弾幕の土煙の向こうから何かがこちらに向かって飛んできた。物凄いスピードで、俺がそれに気づいた時にはもう目の前にソレが迫っていた。何も反応できなかった。
ガキィン!
しかし、その飛来物が俺にぶつかることは無かった。突如、俺の目の前に光る波紋が浮かんだと思うと、ソレ、槍のような物はポトリと足元に落ちたのだ。
『自動防御が発動しました。自動反撃を開始します』
精霊の声が聞こえたと思うと、俺の頭上に光が集まり始め、青白く輝くバスケットボールくらいの球体になる。
『目標補足。発射』
輝く玉から、弾幕の向こうへ向けて一条の光が走った。瞬間。
ガガァン!
と雷鳴のような音が響いた。思わずビクッとしてしまった。
周囲からも「ひっ!」「キャー!」と悲鳴が上がる。
『目標消失。脅威の排除完了。自動反撃を終了します』
(一体何が起きた?)
『遠方から投げ槍による攻撃を受けたんですよ。安心パックが無ければケンジ様死んでましたよ』
(あの土煙の向こうからかよ!どんな奴だよ、それ)
『既知の魔物の性能を遥かに超えてるので、恐らくは邪神の隠し玉か何かでしょう。神様もご存じないようで、驚いてますね』
(もしかして、俺が狙われた?)
『でしょうね。神様のお気に入りのケンジ様なら、邪神に目を付けられてもおかしくないです』
(うわー、マジかよ)
『安心パック、おススメですよ』
(ああ、絶対付けるわ)
突如として訪れた生命の危機に、今さらになって汗が吹き出て来た。
それからは急激に魔物が減っていき、ついには弾幕を超えてくる魔物がいなくなったので、テキ屋組に射撃を中止させた。
土煙が酷くてその向こうの様子が全く分からない。自然に晴れるのを待つとかなり時間がかかりそうだ。魔法はどうだろう。
(何かいい魔法はないか?)
『う~ん、<竜巻乱舞>ですかね。そこに転がってる魔結晶を使いますよ』
(やってくれ)
『では。そーれ!』
突如として強い風が吹き荒れる。遠く離れた場所で風が渦巻き、あっという間に大きな竜巻が5つ出現して、土煙を吸い上げていった。
あー、魔物の死体も宙を舞っているな。
「うわあー」「た、<竜巻乱舞>だと!」「誰の魔法だ?」
と周囲が騒がしい。
30秒ほど経って、竜巻はほどけて消えていった。土煙もすっかり晴れて、見通しが良くなった。しばらくして、巻上げられた魔物の死体や木々が地面に落ちるドシン!という音が遠くから響いてきた。
俺はオペラグラスを取り出して向こうの様子を見た。
「う~ん、魔物はいないみたいだが、良く分からんな」
俺みたいな素人だと、どこを探せばいいか見当がつかない。
「ケンジ殿、もしかしてそれは遠眼鏡か?」
近くにいたギルマースが尋ねてくる。
「ん?ああ、遠くが見えるオペラグラスってものだ。使うか?」
「よし、貸してくれ。おお!はっきり見えるな。ふむ、魔物の群れが見当たらないな。奥の森に逃げ込んだか?」
ギルマースが詳しく観察してくれている。
その後、見張り塔の監視員からの報告と合わせて、ギルマースが戦闘の終結を宣言した。
「魔物の大群は殲滅されたと判断した。我らの勝利だ!」
ワー!と鬨の声が上がる。
抱き合って喜ぶハンターたち。壁の下の住民たちも大喜びだ。
テキ屋組も肩をたたき合って互いの健闘を讃えあっている。
「やりましたね、ケンジさん」
射的担当のオヤージュさんが近づいてきた。
「ああ、皆のおかげだよ。よくやってくれた」
周りを見渡すと、テキ屋組のみんなはハンターたちに囲まれて称賛されているみたいだ。照れくさそうにしながらも、誇らしげな笑顔を浮かべている。
そこにギルマースさんがやってきた。
「ケンジ殿!この町を救ってくれたこと、心より感謝する。貴殿たちの活躍が無ければ、この町も滅んでいたに違いない。本当にありがとう!」
そうまくし立てると、俺の手を両手で握りブンブンと上下に振った。
「お、おう」
俺は照れくさくて、適当に言い訳をして壁の下に降りて来た。
「ケンジさ~ん!終わったんですね!」
下の屋台を任せていたジェイシーが手を振りながら駆け寄ってきた。オイオイ、そんなに走ったら。
「きゃっ!」
やっぱりこけた。
「大丈夫か?」
歩み寄って、引っ張り起こしてやる。
「す、すいません。ありがとうございます」
「下の様子はどうだった?」
「はい、順調でした。今、戦勝祝いのためにドンドン作ってもらってますよ」
「お、気が利くな。他の屋台も出しておくか」
俺はジェイシーと連れ立って、屋台の方へ向かった。
その夜、俺たちの屋台はフル稼働だった。
「この町を救ってくれてありがとう」「私たちが無事なのもあなた方のおかげだ」
屋台を訪れる住民たちは口々に俺たちテキ屋組にお礼を言って行く。
これまで役立たずと陰口を叩かれ、肩身の狭い思いをしていた”職無し”達は、この日、町の英雄となったのだ。
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