第9話 スキル<ショバ管理>
三人を引き連れて朝市へやってきた。
「オヤージュさんには景品のネタになりそうなものを見繕ってもらいたい。大人の客にも対応できるよう、色々幅広く考えてみてくれ。ニィキさんはお好み焼きの具材を仕入れてもらう。ジェイシーは何をいくらでどのくらい買ったかを記録してもらう。いいか?」
「「「はい」」」
皆真剣に市場を見て回っている。本当に真面目でやる気があるので、こっちとしては大助かりだった。俺は質問に答えたり、カードで支払ったりするだけだ。
食材選びの時にニィキさんと会話していて、効果を持つ食材の共通点が分かった。全て魔物由来の食材だったのだ。タフ茄子というのも植物型魔物だったようだ。
なので、今回は魔物由来の食材を片っ端からニィキさんに選んでもらった。
今後の事も考えて、荷車と麻袋を購入し荷物はそれに載せた。これで、今後の買い出しは任せられるだろう。
三人には一旦この荷物を持って神殿に戻ってもらい、俺は一人で商業ギルドに向かった。
「おはようございます、ケンジ様」
「おはよう、ヤーリテさん」
応接室に案内され、お互いに挨拶を交わすとすぐに本題に入った。
「従業員を雇ったから、4つの屋台をまとめて出せる場所を紹介して欲しい」
「さようでございますか。ただ、飲食と遊戯の露店を一か所で出すというのは今まで前例が無いものでして。少し担当の物と相談させてください」
「ああ、よろしく頼む」
そう言うと、ヤーリテさんは慌ただしく応接室を出て行った。
俺はこの時間を使って、レベルアップの結果を見ることにした。カバンから例の羊皮紙を取り出す。
「ふーん」
新機能で目立つのは、<射的>の”自動装填”、<くじ引き>の代価のまとめ投入、<お好み焼き>の”賞味期限延長”、<綿あめ>の”デトックス効果”、かな。
他にもいろいろ追加されていたが、既存の機能の強化とかそんな感じだ。
「お待たせしました」
ヤーリテさんが戻ってきたので、俺は羊皮紙をカバンにしまい込んだ。
「ケンジ様の新しい試みに合わせて、今まで露店を出していなかった区画をケンジ様専用で開放することに決定いたしました。こちらとしても試験的なものですので、今後3か月の区画使用料を無料とさせていただきます」
「助かるよ、ありがとう」
「いいえ、こちらこそ期待しておりますので。所で、決済装置のご用意はいかがですか?」
「決済装置?」
「はい。ギルドカードによる支払いを受け取る場合、ケンジ様が受け取るならばご自身のギルドカードを使えば良いですが、従業員が受け取る場合は決済装置が必要となります。こちらで貸し出しもしておりますが」
「そういうことか。なら、4台借りるよ」
「承知しました。初めの1か月は無料とさせていただきますね」
「そうか。またまた、ありがとうだな」
俺たちはガッチリと握手を交わした。
今回割り当てられた区画は、神殿から割と近い場所だった。大通りと裏通りを繋ぐ路地の裏通りに近い方だな。
この裏通りにはハンターギルドと言うのがあるらしくて、それなりの人通りが期待できるそうだ。何で今まで露店を出していなかったんだろうな?
まあ、いいや。新規開拓には困難が付きものだからな。
ちなみに、ハンターギルドと言うのは、戦闘系の職業を持つ人々が登録しているギルドで、魔物や野生動物を狩猟したり、野草や木の実を採取したり、と言った仕事をしている。公的な兵士たちと同様、危険な魔物から人類を守るという重要な役割を担っているらしい。
神殿に立ち寄って、従業員5名と荷車を引き連れて、新天地へとやってきた。
「なるほど、あまり良い場所とは言えないな」
路地にしては結構広いが、店を出すには少々狭いかな。そして薄暗くてじめじめしているな。
何にせよ、これが新しい俺のショバだ。
新スキルの<ショバ管理>を早速使ってみよう。裏通りの一部と、この路地の中ほどまでをイメージしてスキルを発動する。
「<ショバ管理>」
見た目には変化がない。
しかし、俺にはこのショバの状態が手に取るように分かるようになった。何と言えばいいだろう、ああ、自分の部屋で目をつぶっても大体どこに何があるのか分かる感じ、と言えばいいだろうか。
人や物がどこにあるのか、目で見なくても分かるのが不思議だ。
そして、この感覚で嫌なものを捉えている。ネズミや黒いアレなどの不潔生物が生息し、犬猫や人の排泄物、吐しゃ物、生ごみなんかも落ちている。
衛生状態が最悪だ。こんな所で営業したら食中毒待ったなしだな。
本来、この広さを清掃するのは一日仕事になってしまうが、俺にはスキルの機能がある。
スキル<ショバ管理>の機能の一つ、”衛生管理”を使ってみた。
途端にショバ全体に淡い光が広がったと思うと、フッと周囲の空気が変わった。
「え!」「何だ?」「わわっ!」
連れて来た従業員も驚いている。
「驚かせてすまんな、俺のスキルだ。しかし、こいつは凄いな!」
「あ、ゴミが無くなってる」「臭いも消えた?」
なんと、落ちていたゴミや汚物が跡形もなく消え去り、じめじめとして少し悪臭が漂っていた空気が、途端にさわやかなものになったのだ。不潔生物も驚いてどこかへ逃げていった。
これなら食中毒を出すこともないだろう。清掃の手間も省けるし、流石は奇跡だ。
スキルでそれぞれの屋台テントを呼び出す。
お好み焼き屋は裏通りに向かって設置し、路地内に残り3つの屋台を出した。
匂いで人を惹きつけて、路地内へ誘導するのだ。
”転職”した従業員たちは、俺が指示しなくてもまるで昔からやっていたかのようにテキパキと動いてくれる。
「ケンジさん、今日の食材のチェックをお願いします」
ニィキさんに呼ばれてお好み焼き屋台へ向かう。
いろんな食材の効果を調べたいが今日は余裕が無いので、効果持ちの食材は初日に使ったオーク肉(体力増強)と劣コカトリスの卵(持続回復)だけにした。
オヤージュさんには、射的とくじ引きの景品管理を任せた。客層に合わせて景品を変えるように指示してある。
アーネさんにはスキル<綿あめ>の新機能”デトックス効果”を説明しておいた。
「つまり、身体に悪い影響のある物を取り除くという事ですか。毒とか病気などの状態異常が良くなるんですね。分かりました、売り文句として使いますね」
後は任せて良いだろう。
さあ、営業開始だ。
読み通り、まずはお好み焼きの香ばしい匂いにつられて裏通りからお客が寄ってくるようになり、そのお客を路地の方に呼び込んで、射的やくじ引きに誘導することができた。
景品にハンターが良く使う傷薬などを揃えたおかげで、結構な人が遊んで行ってくれた。
問題は綿あめだった。
いや、売れなかったわけではなく、それなりに売れた。そうじゃなくて、アーネさんが美人過ぎた事が問題だったのだ。
「なあ、姉ちゃん。名前くらい教えてくれよ」
「ほら、これで今日作るもの全部買い占めるからさ、今日は俺に付き合ってよ」
男どもが綿あめの屋台の周りにたむろして、アーネさんをナンパしているのだ。
「はいはい、お仕事の邪魔です。お帰り下さい」
アーネさんも軽くあしらっているふりをしているが、顔が強張っている。
ジェイシーなんて怖がって俺の後ろに隠れてるよ。
はあ、仕方ない。注意するか。
「はい、ちょっとごめんよ。お兄さんたち、ここは綿あめを売ってるだけなんでね、そういうのが欲しけりゃ花街の方へ行っておくれ」
俺が間に割り込むようにして声を掛けると、男どもがギロッとこっちを睨む。
「ああ!うるせぇよ」「俺は客だぞ全部買ってやるって言ってんだろが」
と声を荒げて凄んできた。怖ぇぇ~!俺、ケンカ苦手なんだよ。
これはもう使うしかない。
”ショバ治安維持”を!
スキルを使った途端に、問題の男どもの背後にヌッと大きな人影が現れた。
頭一つ高い身長にがっちりとした体形。角刈り頭にサングラスをかけて、ダークスーツを着ている、いわゆる”黒服”ってやつだ。
「お客さん、ちょっと裏まで来てもらおうか」
黒服はそう言うと、ガシッと男どもの肩を掴んでグイグイ引っ張って行く。
「お、おい!何しやがる、離せ!」「いつの間に背後に!や、やめろ」
男どもは暴れ、肘打ちやパンチを繰り出すが、黒服はビクともしない。そしてショバの端まで行くと男どもをブン!と投げ飛ばした。俺は人が空を飛ぶのを初めて見た。
路地のお客たちも呆気に取られてその軌道を目で追っていた。
路地の奥まで吹き飛んだ男どもはしばらくもがいた後、起き上がると走って逃げていった。
ふぅ、戻って来なくてよかった。
すると、見ていたお客から拍手喝采が沸き起こった。この辺りでも嫌われている奴らだったようだ。
この黒服の用心棒の噂が広がってくれれば、厄介ごとも減るだろう。
その後は何事も無く順調に営業を続け、昼時の忙しい時間を過ぎた。
で、昼の忙しい時間から気にはなっていたんだが、お好み焼き屋台とは反対側の角に何やら露店を開いている奴がいるんだよな。
そこは俺のショバだ。商業ギルドからも俺の専用区画と言われている。これはちょっと、ナシ付けに行かないとな。
「こんにちは、お兄さん。儲かってるかい?」
「や、やあ。それなりって所だよ」
露店の商品を眺める。銀細工ってやつかな?指輪やブローチ、イヤリングとかのアクセサリーだった。
ここでスキルの”ナシを付ける”機能を使う。
「ふーん。ところでお兄さん、誰の許しでここに店出してんだい?」
「あ、あのすいません!許可が必要なんですか?」
「そりゃあそうさ。この町のどこだって、無許可で営業できるわけねぇだろ。特にここは俺のショバだ。まあ、あんたは初犯みたいだしな。売り上げの5割で良いぜ」
「え?5割って?」
「ショバ代だよ、ショバ代。おいおい、無許可でやってたんだ、本来なら全部没収されても文句は言えねぇよな。それを5割で許してやろうってんだ。ありがたいとは思わないか?」
「は、はい!ありがとうございます」
スゲェな、すんなり通ったよ。
それじゃ、続けて”ショバ代徴収”を使用!
すると、この男のポケットやカバン、足元の箱が光を放ち、硬貨がフワリと宙を舞って俺の手元に収まった。おいおい!凄いな、自動で徴収するとは思わなかった。
男も呆気にとられてポカンとしている。
銀貨1枚と、銅貨53枚だった。
「今日の売り上げは銀貨3枚ってところか」
「ど、どうしてそれを?」
「俺のスキルだ。誤魔化しは効かないからな。これからもここで営業したけりゃ、一日銀貨1枚のショバ代で許してやるが、どうする?」
「え、あの。はい、分かりました。よろしくお願いします」
俺はこの男と握手を交わした。
この男、名前はルバァク、職業は”細工師”であり、アクセサリーは自作だそうだ。今まで卸していたアクセサリー店からいきなり取引を切られて途方に暮れて、初めての露店をここで開いたという。何だか訳ありっぽいな。
しかし、職業を聞いて閃いた。
「ショバ代は現物でもいいぞ。売値で銀貨1枚相当のあんたの商品でな」
「いいんですか!」
ルバァクは目を輝かせている。
俺の方も、それを景品の代価に使えるから悪くない取引だ。まあ、流石にルバァクが露店出している間は景品にしないけどな。
その後、夜の営業も無事に乗り越えて、店じまいとなった。
うあー、疲れた。従業員もくたくたになっている。
色々と情報をまとめたいが、全部明日に回そう。明日の朝に神殿でミーティングすることにして、今日は解散した。
早くベッドに倒れ込みたい…
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