第8話 2度目の

太陽が下がりオレンジ色になってきた頃、7人に増えた候補者たちを引き連れて、昨日と同じ飲食通りの指定位置にやってきた。

「よし、ちょっと離れててくれ。<お好み焼き>」

スキルで屋台テントを出すと、新しく加わった4名から「おおー」と声が上がった。

時間が無いのでちゃっちゃと準備を済ませる。


今日は食材による効果も調べてみよう。

”食材変換”で魚を豚肉に変換しその効果を調べると、「人面魚:魅力アップ(3時間)」と判明した。なるほど、変換元の効果が残るのか。

他のも調べたが、キャベツが「タフ茄子:スタミナ増強(3時間)」だっただけで、その他の食材は特に効果が無かった。全ての食材が効果を持っているわけではないらしい。いずれメモを取って一覧表を作ろう。


俺は、黒板にチョークで今日のお好み焼きの効果を書いて、屋台の目立つところに掲げておいた。


お客が殺到する前に、候補生へのレクチャーを済ませよう。

「鉄板の前に集まってくれ。これから作り方を見せるから、よく見て覚えるように」

テントの外側に候補生たちがずらっと並び、真剣な表情でこっちを見ている。う、俺もちょっと緊張してきたぞ。

言葉でも説明しながら、ゆっくりと一通りの工程をやって見せた。

「とりあえず一口ずつ食ってみろ」

と言って、割りばしを人数分渡す。割りばしの使い方も教えた。

「ん~!」「美味い!」「おいしいー!」「初めて食べる味だ」

皆、目を輝かせて味わっている。

「これから鉄板の半分ずつを使って、二人並んで作ってもらう。上手にできた人を採用するから、まあ、がんばれ」

「「「はい!」」」


候補者たちに鉄板を使わせて、俺はそれを反対側から見ている。

最初の二人は、例の中学生くらいの女子と、新たに加わった中年オヤジだ。

二人とも初心者らしいたどたどしい手つきで、危なっかしい。

「ひゃああ!」

ベチャ!

うん、そうなる予感はしてた。

案の定、ドジッ娘の女子がひっくり返すのに失敗して、豚肉が顔にへばりついていた。周囲から笑いが起こる。

「あー、大丈夫か、火傷してないか?」

「は、はい。すいません!」

と、またもやペコペコと謝罪する女子。

「まあ、地面に落ちたわけじゃないし、焼けば食えるだろ。さ、続けて」

「はい!」

結局、最初の二人が作ったお好み焼きはボロボロだった。まあ、食えない事は無いだろ。

容器に詰めたそれをお土産に持たせて、二人には先に帰ってもらった。


「よし、次の2名だ」

次は、最初からいた20代の青年と俺とタメくらいの男子のペアだ。

と、ここで青年の方がみごとなヘラさばきを見せた。こいつ、俺より上手い。

適性があるってことか?

その後の二人の動きの差は歴然としていた。周りで見ていた候補者たちもその動きに目が釘付けになっていた。

焼きあがったお好み焼きも完璧だった。俺だってここまでのものは作れないだろう。

間違いない、この青年は”転職”したな。

「そっちのお兄さんは残ってくれ」

もう一人の男子はお土産を持たせて帰らせた。


次の二人は素人のままだったので、お帰り頂いた。

そして最後の1人、足の悪い白髪の爺さんがまた”転職”した。


青年の方はニィキさん、27歳、職業は”男娼”だったそうだ。なるほど、どおりでイケメンなわけだ。

爺さんの方はジサーマさん、57歳、職業は”飛脚”だったが、幼少の頃に足を悪くして走れなかったのだそうだ。


「これからよろしく頼む。ニィキさんがメインで、ジサーマさんはニィキさんを休ませるときに交代で入ってくれ」

「儂の足の事を気にしているなら気遣いは無用です。長年の付き合いですから、慣れたもんですよ」

ジサーマさんが気合のこもった目で俺を見つめる。

「余計な気遣いだったか。それじゃ二人で適度に休憩を取りながらやってみてくれ」

「「はい!」」

今日の屋台から、早速二人に任せてみることにしよう。俺は様子見に徹して、なるべく手を出さないようにする。


練習で既にソースの焦げる匂いが漂っていたためか、既に屋台の周りにお客が押し寄せていた。

「なあ、まだかい、もう待ちきれんよ!」

「早く売ってくれ!」

イカン、このままでは暴動が起きそうだ。

さっき練習でジサーマさんが作ったお好み焼きを売っているうちに、二人にはじゃんじゃん焼いてもらっている。


「お、これ何だい、魅力アップにスタミナ増強?」

通りすがりのお客が黒板に興味をもって聞いてきた。

「今日のお好み焼きに使ってる具材の効果だよ。食べれば一定時間その効果が得られるんだ」

「何と、そんなものがあるのか?よし、試しに買ってみるか。一つくれ」

「はい、まいど!」

やはり目論見通り、効能に興味を持つお客が現れたな。


後に聞いた話では、この晩、この町の娼館や連れ込み宿が並ぶ界隈はとても賑わっていたという。


とにかく、昨日のお客からの口コミや、ニィキさんとジサーマさんの見事なヘラさばきを見に来たお客、黒板の効果に惹かれて来たお客、それらが合わさって大盛況だった。

手数が増えたことで、生産量も増え、今日は120個以上を売り捌いてしまった!


「お疲れさん、よく頑張ってくれた」

クーラーボックスの食材から疲労回復効果のあるものを選んで、お好み焼きを作って振舞い、二人を労う。

「いやー、こんなに売れるとは思ってませんでしたよ!」

ニィキさんが興奮した様子でお好み焼きを頬張る。

「お好み焼きを焼くのは楽しいですな。自分にこんな取柄があるとは思ってもみませんでした。まるで夢でも見ているようだ」

ジサーマさんは充実した表情で、ゆっくりとお好み焼きを味わっていた。

「明日からは昼時の営業もするから、よろしくな」

「「はい」」

今日はもう遅いので、そのまま解散した。


宿に戻って今日の屋台事業の収支を計算してみた。

神殿でやったお試し屋台での収入はゼロ。使った食材は銅貨60枚ほど。

お好み焼き屋台の収入は1個銅貨6枚で、合計が銅貨786枚だったので、131個売れてたらしい。使った食材は多分、銅貨220枚ちょっと。

屋台の収支としてはおよそ銅貨500枚ほどの黒字だな。半分の250枚を事業資金に回して、残りを4人の従業員に分けると一人約60枚ずつか。約束の20枚を大きく上回るな。

お好み焼きの屋台を夕食時に営業しただけでこれなら、他の屋台も全部、終日営業すれば予想以上に稼げるかもしれないな。

あー、しかし、帳簿付けるの面倒だな。これも誰か雇うか?


そんなことをつらつら考えているうちに眠気に襲われたので、明かり(魔結晶を使う道具だ)を消してベッドに潜り込んだ。


翌朝。朝日の眩しさで目を覚ました途端、頭の中に響くファンファーレ。

『パッパラー♪』

ガバッ!と跳ね起きた。

これは、レベルアップか?

『おはようございます。そして、おめでとうございます。ケンジ様の職業レベルが10に上昇しました』

「おはよう。てか、呼んでないのに来るのか?」

『レベルアップ通知は神様からの業務委託ですので、ケンジ様の契約とは別となっております』

「へぇー」

『レベルアップによる恩恵が多数あるため、口頭での通知が困難と判断し、文書による通知とさせていただきます。こちらです』

ふわっと目の前に巻物のようなものが現れた。

受け取って広げてみると、羊皮紙っぽい材質だった。

内容はこんな感じだ。

━━━━━━━━━

ケンジの職業情報:

職業: 【固有】テキ屋マスター

レベル: 10

スキル: <言語理解>、<射的>、<くじ引き>、<お好み焼き>、<綿あめ>

<ショバ管理>、<屋台開発>

━━━━━━━━━


これじゃ概要しか分からないんだが。っていうか、テキ屋マスターって何?

と思った瞬間、その部分の表示が変わった。

━━━━━━━━━

職業: 【固有】テキ屋マスター『解説:複数のテキ屋見習いを束ねる、テキ屋の中のテキ屋』

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「おお!」

『詳しく知りたいと思った箇所に、詳細が記載される仕組みになっております。既存のスキルへの機能追加もこれでご確認ください。それでは』

精霊は去っていったようだ。


う~ん、色々と気になるのだが、今日は用事が立て込んでるからな。朝飯食べながらざっと目を通して、後でじっくり調べるとしよう。

とりあえず、新規追加のスキルだけ概要を調べた。


<ショバ管理>:屋台を営業する場所を管理する。範囲の設定、ショバ代の徴収、ショバ内の治安維持、などができる。


<屋台開発>:使用者の知識にある屋台を具現化できる。また、屋台に必要なものをこの世界の人間に作らせることができるようになる。


こ、これは!元の世界では親分さんがやってたような仕事じゃないか。テキ屋マスターってそう言う事か。手下を持つ以上はその辺の面倒をみる責任が生じるってわけだな。

正直、俺にはまだ早いと思うが、やるしかない。

俺は、朝食の最後の一口を飲み込むと、気合を入れた。


今日はまず最初に神殿へ向かった。

ニィキさんとジサーマさんの雇用契約を結ぶためだ。

「おはようございます。ケンジ様」

マームさんと挨拶して、早速契約を結んだ。

「昨日の4人分の給料だ」

そう言って、俺は銅貨240枚をマームさんに渡した。と言っても現金ではなく、ギルドカードを触れ合わせての送金だ。

「え、こんなにですか?」

「ああ。昨夜の屋台で既にかなり利益が出たからな。色を付けておいた」

「まあ!ありがとうございます」

ほくほく顔でマームさんが受け取った金を袋に納めていた。

「それと、帳簿付けに人を雇いたいんだが、誰かいるかな?」

「ありがとうございます。それでしたらジェイシーが良いでしょう。職業持ちには遠く及びませんが、この事務所でも時々お手伝いをしてもらっていますよ」

「これから朝市に買い出しに行くから、早速頼みたい。ああ、ニィキさんとオヤージュさんも来てもらおうかな」

「かしこまりました。呼んでまいります」

そそくさとマームさんが居住区の方へ向かった。


3人を引き連れてマームさんが戻ってきた。

ああ、ジェイシーというのは昨日のドジッ娘の事だったか。

「これからよろしくな、ジェイシー」

「は、はい!頑張ります!」

やる気を全身にみなぎらせて元気よく返事をするジェイシー。ドジを発揮しない事を祈るよ。


マームさんに帳簿用の冊子と筆記具を譲ってもらい、いざ3人を連れて朝市へ!

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