第5話 レベルアップ
俺は瞼越しに眩しさを感じ、薄目を開けた。
部屋の窓から朝の陽ざしが入り込んでいた。
「ん、…ああ、そうか」
見慣れない部屋の様子を見て、思い出す。俺は死んで、神様に生き返らせてもらって、異世界に来たんだった。
伸びを一つしてむくりと起き上がった、その時。
『パッパラー♪』
とファンファーレが頭の中に響き渡った。
この感じはガイダンス精霊か?
『おはようございます。そして、おめでとうございます。ケンジ様はレベルアップしました。現在のケンジ様の職業レベルは4です』
「レベルアップ?」
『はい、職業に
「てことは、昨日お好み焼きの屋台を営業したのが評価されたのか」
『はい、そうです。今回のレベルアップにより、ケンジ様は新たに<綿あめ>のスキルを獲得しました』
「”綿あめ”かぁ。確かに、シゲ爺さんに手ほどきしてもらったことがあったな」
俺はいろんな屋台を経験してみたかったので、親分さんに頼み込んで様々な屋台で見習いをさせてもらった時期がある。その時の事を思い出していた。
ガイダンス精霊の説明によると、レベルアップで既存のスキルも機能が増えたそうだ。
<射的>は、”景品生成・配置”の機能が追加された。屋台テント全体を呼び出すと景品棚も設置されるのだが、そこに対価を用意することで、くじ引きと同様に景品が生成され、自動で並ぶようになった。
もう一つ、”コルク銃追加”の機能も加わり、お客用にコルク銃を3丁出せるようになった。これらは俺の意思で性能を制限できるので、「コルク弾しか撃てない」と指定することができる。
<くじ引き>では”景品選択”と”残念賞”が追加された。”景品選択”では、陳列台に出現させる景品を、カタログの中から自分の意思で選べるようになった。今までのランダム選択も併用可能。
”残念賞”は、対価よりもぐっと価値の低い景品が出現し、それをお客に何度渡しても景品陳列台がクリアされないという機能だ。単なるハズレよりもお客が喜ぶだろう。
<お好み焼き>では”食材変換”と”クーラーボックス”の機能が追加された。”食材変換”は、任意の食材をお好み焼きで使える食材に変換できる。例えばお魚をキャベツや豚肉に変換することが可能と言う事だ。
”クーラーボックス”は食材や食品を、鮮度を保ったまま保存する機能だ。容量は1,000リットルと、業務用冷蔵庫並みだ。
後は、全部のスキルに”技術指導”の機能が加わった。これを使うと、従業員を雇って、屋台で働ける程度の技術を身に付けさせる事ができるのだそうだ。
確かに、俺一人じゃ複数の屋台を切り盛りできないからな。重要な機能だ。
そしてここで、予想外の爆弾が投下された。
『レベルアップの説明を以て、基礎知識の習得は完了しました。お疲れ様でした。これにてガイダンス精霊としての契約は終了となります』
「え?もしかして、お前いなくなっちゃうのか?」
ヤバいぞ。こいつにはかなり世話になっているからな、ここで放り出されるなんて不安しかない。
『はい。契約の無い人間に干渉することは禁止されていますので』
「じゃあ、契約延長とかは?」
『契約内容が基礎知識習得までとなっていますので、延長はできません。新規に契約をご希望ですか?』
「できるのか!」
『はい。現在ケンジ様が選択可能なプランは、”サポート精霊:オンデマンド・タイプI”のみとなっております。こちらはサポート内容が”情報伝達のみ”で、必要な時にその都度対価をお支払いいただく形のプランです』
「対価?」
『魔力でお支払いいただけます。ケンジ様の体内魔力の他、魔結晶もご利用いただけます。ちなみに、現在のケンジ様の魔力量ですと、一日に一度のご利用が限界ですので、魔結晶の準備をお勧めします』
「魔結晶ってのはその辺で買えるのか?」
『はい。昨日行った商会でも取り扱っていました』
「よし、そのプランで頼む」
『ご利用ありがとうございます。”サポート精霊:オンデマンド・タイプI”の契約が成立しました。対価をご準備の上、呼びかけていただければ質問にお答えいたします』
良かった。これでガイダンス精霊、改めサポート精霊に色々と教えてもらえるな。
「そういや、何て呼べばいいんだ?」
『ご自由にどうぞ。「おい」とか「Hey!」でも分かります』
「オッケー、これからもよろしく頼む」
『はい、今後ともよろしくお願いします。ではこれで失礼します』
その声と同時に、何かがフッと遠くに行った感じがした。もしかして、これが精霊の気配だったのだろうか。
「とりあえず、魔結晶とやらを手に入れておくか」
そうつぶやいて、一日の行動を開始した。
まずは今日の分の食材を朝市で調達する。確かに商会で仕入れるよりも安上がりだった。しかもこっちの方が新鮮だ。スキル<お好み焼き>の”クーラーボックス”に入れておけば鮮度は落ちないらしいので、大量に買い込んでおいた。”食材変換”も試したいので、お好み焼きと関係ない食材もどんどん買った。
他には肩掛けかばんを買って、ポケットの中の物や毛皮で包んでいた魔物素材を入れておいた。
次に昨日も行った商会に魔結晶とやらを買いに行った。
ついでに昨日借りた荷車も返却した。
「こちらでございます」
店員がテーブルの上に、色とりどりの淡く光る石ころのような物を並べた。
「含まれる魔力の濃度により、色がこのように異なります。赤っぽい方が魔力が薄く、蒼っぽくなるにつれて濃度が濃くなり、高価になります。また、同じ色であれば大きいほど価値が高くなります」
「なるほど。あー、俺の体内魔力の量と同じくらいの物って、分かるか?」
「魔力測定器を使えば分かりますよ。お持ちしましょうか?」
「ああ、頼む」
店員が合図をすると、控えていた店員が部屋を出て行く。間もなく戻ってきて、持って来た機械をテーブルの上に置く。
「この部分に手を当てていただけますか」
「こうか?」
「はい、結構です。そのまま動かないように」
ブゥゥンと小さな音が鳴って、作動している様子。
「こ、これは!」
店員が驚愕の声を上げた。
え、何?なんかヤバかった?
「ケンジ様の魔力量は10です。随分と少ないですが、何か大きな魔法を使われた後でしょうか」
「え、魔法?」
「もしくは魔道具ですかな?これだけ減っていると、魔力欠乏症の一歩手前ですね。お気を付けください」
おおう、言われたことが全部分からん、ヤバい。早速サポート精霊に質問したいことが山ほど出てきたぞ。
その為にも魔結晶が必要だ。
「あー、その10の量に相当する魔結晶だと、どれになる?」
「そうですね、この一番安い小赤魔結晶でも50ありますから、10となるとこれをさらに砕いたものになります」
うわ、俺の魔力量少なすぎない?
値段を聞くと銅貨5枚だそうだ。質問1回に付き銅貨1枚と考えればいいかな。
色が黄色のものが一番コスパが良いらしい。小黄魔結晶(魔力量300)が銅貨20枚だったので、これを10個買って店を後にした。
一旦宿に戻ってきた。
「へい、精霊」
『お呼びですか?』
おおー、本当に来た。
「さっき魔結晶買ってきたんだが、俺の魔力量がやたら少ないと言われてな。魔法やら魔道具やら良く分からん事を聞かれたんだ。その辺を教えて欲しい」
『了解しました。まずは対価をいただきますが、魔結晶からでよろしいですね?』
「ああ」
手に持った小黄魔結晶からキラキラと光があふれ出して空中に消えていった。
「今のでどのくらいの魔力量なんだ?」
『今回は10いただきました。体内魔力を対価とする場合は8で結構です。それでは回答します』
サポート精霊の回答によれば、この世界の人間は誰でも魔力を持っており、一般的な成人であれば平均で130程あるらしい。赤ん坊でも10はあるってさ。俺は赤ん坊並みか!
俺は魔力の無い世界から来たばかりだから少ないのは仕方がない。ここで生活するうちに増えていくとの事。
”魔法”は、「魔力を対価に精霊に仕事をしてもらう事」全般を指すらしい。なので、今こうして質問に答えてもらっているのも、魔法ってことだ。
”魔道具”は、人間が作った便利道具で、動力として魔力を使うので、体内魔力か魔結晶が必要となる。
”魔力欠乏症”は、体内魔力が著しく少なかったり、一気に大量に消費したりすると起こる症状で、めまいや頭痛、吐き気、酷ければ失神などに見舞われるとの事。
『ケンジ様の体内魔力量が増えれば、より上位のプランに変更することもできますので、ご検討ください。これにて、今回のご依頼については完了となります。またのご利用お待ちしております』
そう言うとサポート精霊の気配が消えた。
やはり、向こうの世界とは常識が全然異なることを実感した。これからもサポート精霊のお世話になることは多そうだな。
おっと、そろそろお昼だな。
飯を食って、午後は商業ギルドに行かないと。
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