第4話 スキル<お好み焼き>
俺はトキパさんの案内で、”飲食通り”と呼ばれる場所にやってきた。両脇に食堂や酒場が並んでるだけでなく、路上に出したテーブルの上で調理して提供している露店もある、活気に満ちた仲通りだ。
俺は割り当てられたスペースから周りを見渡し、この光景に胸を躍らせていた。
「いいねぇ、この賑わってる感じ。屋台を出すのにピッタリだ」
ライバルは多いが、日本のお好み焼きで勝負してやる!
トキパさんに礼を言って、ここで別れた。
スキル<お好み焼き>については、ここまでの道中でガイダンス精霊から軽く説明を受けていたので、早速使ってみることにする。
両手を前にかざし意識を集中する。イメージするのにちょっと時間がかかった。
「<お好み焼き>!」
ブォン!と低い音と共に、お好み焼きの屋台テントが出現する。あっちの世界でヤギさんが使っていたテントと同じものだ。
調理台や鉄板、保温器、ライトなどの設備類に、割りばしやプラスチックトレーなんかの消耗品、ソースやマヨネーズなどの調味料、紅ショウガや天かす、青のりなどの薬味類も既に準備済みだ。
メインの食材以外のこまごましたものはスキルが自動で補給してくれるらしい。
ちなみに電気やガスの代わりに奇跡の力で動いているから、光熱費が無料だ!
荷車から小麦粉の袋を取り出し、調理台に乗せる。ステンレスのバット(四角い皿型の容器)と、ボウルに調理台の蛇口(これも奇跡なので無料!)から水を入れて並べる。
そして、生地と中華麺になるよう念じると、あら不思議。
小麦粉が消えて、ボウルの中に生地が満たされ、バットには蒸した中華麺が一玉ずつ並べられた状態に早変わり。
奇跡です。
その後も、荷車から食材を出して、容器と一緒に並べて、えいやっと気合を込めると、材料が切り整えられて容器に入った状態になっていく。小粒の豆からはもやしが一瞬で出来上がる。
めっちゃ楽!包丁でキャベツ切るとか、ブロック肉を薄く切るとか、やらないで良いんだもん。スキル万歳!
「んじゃ、焼きますか」
材料の準備が終わったので、いよいよ焼きに入る。一応、ヤギさんの指導を受けて一通りのことはできるようになっているが、ヤギさん曰く「ヘラさばきが全然なってねぇ」らしい。もっと魅せるヘラ使いを心がけねば。
生地をお玉に一杯、鉄板の上で薄く伸ばし、薬味やキャベツなどの具材を載せ、頂上に肉を載せる。ヤギさんの動きをイメージしながら、ヘラで一気に裏返す。形を整えて横にずらすと、今度は麺を炒める。
ソースの焼ける暴力的に香ばしい匂いが辺りに漂い出す。すると、道行くお客もこちらに関心を持ち始める。
「おう、兄ちゃん。何か良い匂いしてるね」
「へい、らっしゃい。本邦初公開、日本から来たお好み焼きってもんだよ。絶対美味いから、焼き上がりまで見てってくれよ」
そう言いながら、カッカッカン、とヘラで麺をかき混ぜ続ける。
「へぇー、見事なもんだね。確かにこりゃ初めて見る食べ物だ」
お客も物珍しさに心ひかれたようだ。よし、1人目ゲット!
後ろのお客も興味を持ったようで、近づいて来てのぞき込んでいる。こりゃ、2つ目も焼いた方が良いな。
鉄板の空いてる所で2つ目に具を盛って、エイヤっとひっくり返したところで、歓声が上がり拍手が鳴り響いた。ふと前を見ると人だかりができていた。
「いやー、お見事だね」「見てるだけでも楽しいよ」「どんな味か楽しみだねぇ」
よかった。こっちの世界の人にもウケてるよ。
鉄板の上に卵を割って黄身を崩し、その上に全体を乗っける。最後の返しをして、ソースを塗り、マヨネーズをかけて、青のり、けずり節を掛けて完成だ。
プラスチックトレーに入れて、輪ゴムをかけ、割りばしを挿して最初のお客に差し出す。
「1個銅貨5枚です」
「銅貨5枚か、結構するんだな。え~と、はいよ」
「まいど!」
チャリンと受け皿に銅貨が放り込まれ、お客はトレーに入ったお好み焼きを受け取る。しげしげと眺めると、首を傾げた。
「この入れ物は何でできてるんだ?お、この木の棒で食べるのか?」
そっか。食べ方も教えないとな。
「その入れ物はスキルで作ったものだよ。食べ終わったら消えるから」
「何!あんたスキル持ちかい。こりゃ、食べるのが楽しみだ!」
箸の使い方も教えてやったが、結局ぶっ刺してフォークのように使っていた。
「うっは!こりゃ美味い!こんなに調味料を贅沢に使っているなんて、他じゃ絶対に食べられないぞ!これで銅貨5枚は安すぎじゃないか?」
一口食べた途端に大騒ぎだ。周りの知り合いらしき人物が、一口寄こせと詰め寄っている。
後ろで待ってた別の客が「次は俺の番だ!」と言うと、他のお客も注文し始めた。
こりゃ捌ききれんな。よし。
「あー、皆さん!焼くの間に合わないんで、1人半個にさせてくれ!値段は銅貨3枚ね」
「構わんよ」「それより早く食わせてくれ!」
ってことなので、その後はどんどん焼いて、じゃんじゃん売りさばいた。
気付けば日がすっかり落ちて、空には星が瞬いていた。
材料が尽きたので、今日はここまでだ。
「すんません、売り切れです」
待っていたお客には文句を言われたが、無い袖は振れぬ。
スキルを解除すると、テント屋台から何から全部が消失するので、片づけが非常に楽だ。さすが奇跡。
と、そこへ最初にお好み焼きを買ったお客がやってきた。
「いやー、とても美味しかったよ。また食べたいねぇ」
「それは良かった。明日もやるんで、良かったらまた食いに来てくれ」
「ああ、それは是非。ところで、この料理何が入ってるんだい?食べ終わってから物凄く体の調子がいいんだよ。腰の痛みも取れたし、凄い効果だね」
「え?いや、普通の食材しか使ってないはずだけどな。商会で買ったものばかりだぞ」
「そうなのか、それじゃスキルの効果なのかな?美味しい上にこんな効能まであるなんて、素晴らしい料理じゃないか!これは常連になるしかないな」
ワッハッハと大笑いしながら、手を振って去っていった。
その後も複数のお客に同じような事を言われた。
どういう事だ?ガイダンス精霊に聞いてみた。
『それはスキル<お好み焼き>の効果です。使用した食材に応じて様々な追加効果を食べた者に与えます。スキル発動中に、食材に触れて効果を知りたいと念じれば分かります。ちなみに、今日使った食材の内、オークの肉には”体力増強(3時間)”の効果が、劣コカトリスの卵には”持続回復(2時間)”の効果がありました』
「なるほどな。てことは、売り出す時に『今日のお好み焼きはこの効果が付いてる』と宣伝すれば、もっとお客を呼べそうだな」
しっかし、流石は神の奇跡だな。食べて速攻で効果が表れる健康食品なんて、元世界じゃ無理だもんな。
結局初日は準備不足だったから、50個程しか作れなかったが、売れ行きは好調だった。
俺は異世界で初めての屋台に、十分な手ごたえを感じていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます