第3話 異世界の町

ガイダンス精霊に案内されて歩くこと10分ほどで、踏み固められた道を見つけ、そこからさらに20分くらいで木製の塀に囲われた町の入口へと到着した。


途中の草原で、でっかいトカゲっぽい魔物や、でっかいネズミっぽい動物などに出くわしたが、<射的>スキルで撃破しドロップ品を回収してきた。牙とか爪とか、毛皮等が得られた。入れ物が無いので、とりあえず毛皮に包んで持ち歩いている。


とりあえず、今はまず目の前の町だ。

町の入り口は大きな門があるが、今は開け放たれており、馬車や人が出入りしている。道行く人は昔のヨーロッパ的な感じの外見が多いが、肌の色や服装が異なる人もちらほら見られる。俺の恰好も仕事用の薄汚れたシャツと綿パンだったので、あまり違和感はないと思う。

門番は突っ立っているだけで、特に検査とかはないみたいだ。


何食わぬ顔で門をくぐろうとした所で、門番に呼び止められた。

「おいちょっと待て。見慣れない顔だな」

しまった、他の人は顔パスだったのか。

「すいません!何か手続きが必要でしたか?」

こういう時は下手したてに出るに限る。愛想笑いでペコペコして敵意の無さをアピールだ。

「手続きって程じゃないが、よそ者は一応事情を聴くことになっている。どこから来た?」

門番も警戒を緩めて、苦笑いで聞いてきた。

「俺は日本って国から来ました」

「ニホン?聞いたことないな。まあいい、この町に来た目的は?」

「屋台を出して商売しようと思ってます」

「ヤタイ?ってのは分からんが、商売するのに荷物はどうした?」

「これから町で仕入れる予定です」

「ふ~ん、職業は?」

「テキ屋っす」

「テキヤって何だ?聞きなれない職業だな」

「ええ、まあ、固有職業ユニークジョブですからね」

「ユ、ユニークジョブぅ!」

門番は驚愕の叫び声をあげた。それを聞いた周囲が一気にザワつき始めた。

あれ?何かマズかったか?

門番は急に背筋を伸ばすと気を付けの姿勢になった。

「し、失礼しました!」

「え?何、どしたの急に」

「ユニークジョブのお方と知らなかったとはいえ、無礼な態度を取ってしまい、大変申し訳ございませんでした!」

門番さんはその場に片膝を付くと頭を下げた。多分、土下座に相当する謝罪なのだろう。

態度が変わり過ぎてビビるわ!

「あ、ああ、大丈夫。気にしてないし」

「そうか。はぁ、良かった」

門番さんはホッとした表情で立ち上がると、右手を差し出してきた。

ん?ああ、握手か。馴染みが無いから戸惑ってしまった。

「ようこそ、草原の町へ!貴方の来訪を歓迎します」


で、その門番さん、トキパさんに「お詫びに町の案内をさせてくれ」と言われたので、お願いした。

商売するなら商業ギルドで手続きが必要らしいから、そこへ案内してもらう。

道中聞いた話では、固有職業持ちは必ず”スキル”という奇跡の御業を持っているので、基本的に畏れ敬われてるのだそうだ。

なんと、過去には怒った固有職業持ちがスキルを暴走させて、国を一つ滅ぼした事件があったそうだ。

なるほど、それならあの態度も頷けるわ。


ちなみに、固有職業持ちだと偽ると重罪になるので、かたりをやらかす奴はまずいないそうだ。職業を調べる装置があるので、それで嘘が一発でバレるらしい。


商業ギルドでも正にVIP扱いだった。特別な個室に通されて、あれよあれよという間に、会員登録が終わってギルドカードを手にしていた。

途中、例の職業を調べる装置が出てきて、俺の固有職業「テキ屋」が確認されると、ギルド職員が「未知の職業だ!」とどよめいていた。


「それで、どのようなご商売をなさる予定でしょう」

向かいのソファーに座るギルドのお偉いさん、ヤーリテさんが問いかけてきた。

俺はお好み焼きとくじ引きの屋台について説明した。

「なるほど。その”オコノゥミヤキ”というのは食べ物ですからすぐにでも開始していただいて問題ありません。ただ、もう一つの”クズィビキ”というのは賭け事に近いので、審議が必要となります。職員を集めた場で、一度実演していただけますか?」

「ええ、もちろんです」

「では詳細について・・・」

その後の話し合いで、お好み焼きの屋台の場所が決まり、くじ引きは明日の昼食後に審査をすることになった。


あらかた話し終わった所で、大事なことを思い出した。

「ああ、そうだ。これを見て欲しいんですが」

と言って、ポケットから例の宝石を取り出す。

「こ、これは!もしや、カーバンクルの宝石ですか?」

ヤーリテさんが目を見開いて驚いていた。

「どうやらそうらしいです。もらい物なので俺も良く知らないんですが」

くじ引きの景品でもらったので、嘘ではない。

「手に取ってみても?」

「どうぞ」

ヤーリテさんがポケットから手袋を取り出して手に嵌め、慎重に宝石を摘まみ上げて、しげしげと眺めている。

「これは素晴らしい!全く傷が無い上に、色も純粋で濁りが無い。最高級品ですな」

興奮しているのか、鼻息が荒い。

そこまでのものなのか。

話し合いの結果、これはオークションに出品して、より高値を目指すことに決定。

そして、この宝石を担保にして、当座の資金をギルドに融資してもらえることになった。金貨3枚で、色々と貨幣価値を教えてもらった結果、300万円くらいだと思われる。スゲェな、カーバンクルの宝石。

ギルドカードを持っていればキャッシュレスで買い物できるそうなので、お金はギルドの口座に入れてもらった。


宿は商業ギルドに良い所を紹介してもらい、トキパさんに案内してもらった。

見るからに立派な建物で、トキパさんによればこの町で一番高いそうだ。

チェックインを済ませて、次はお好み焼き用の食材の買い出しだ。

朝市で買うのが一番安上がりなのだが、もう昼過ぎだ。こういう場合は商会に行くと良いらしい。

トキパさんの案内でたどり着き、商業ギルドのカードを見せると、ここでもVIP扱いだった。

ここでは、豚肉っぽい物、キャベツっぽい物、小さな豆、小麦粉、卵といった食材を購入できた。他にも見た事の無い食材を、お試しで少量ずつ買った。

荷車を借りて全部積んでもらった。荷車は明日返却することになっている。


さて、準備は整った。トキパさんに商売のできる場所へ案内してもらう。

試しにお好み焼き屋台を出してみて、この世界の人の反応を見るのだ。

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