第2話 こんにちは異世界

「はっ!」

あれ、俺寝てた?

状況が把握できない。きょろきょろと周囲を見渡すと、どうやら疎らに木が生える草原に寝そべっていたようだ。

「は?どこだ、ここ」

俺は夏祭り会場で出店を出してたよな。それで、ヤギさんの屋台でボヤが出て…

「なんで、草っぱらに?」

意味不明なんですけど!

俺は頭を抱える。

「ちょ、誰か説明して~!」

『では説明します』

突然、どこからともなく声が聞こえた。

「え!誰!」

きょろきょろと周囲を見回すが、人影など見当たらない。

『私はガイダンス精霊です。ケンジ様が基礎知識を身に付けるまでお供しますので、よろしくお願いします』

「あ、どうもっす」

どこにいるのか分からないが、とりあえず頭を下げておいた。

『まずケンジ様がなぜここにいるのか説明します』

ガイダンス精霊とやらが淡々と話し始める。


どうやら、俺はガス爆発で即死だったらしい。幸い、周囲のお客さんに死傷者は出ておらず、俺の後ろにいたヤギさんや救助に来た仲間も無事だったそうだ。

で、その場にたまたま居合わせたこの世界の神様が俺を拾って、持って帰って来たそうだ。

ここは俺のいた地球とは別の場所、というか別の世界なのだという。

「別世界の神様がそんなところで何やってたんだ?」

『縁日を楽しんでいたそうです。射的も楽しかったと言ってました』

おいおい!客の中に神様がいたってのか?マジか。


神様は俺の身体を修復し、こうして生き返らせた上で、この地上に放り出したわけだ。

「まあ、生き返らせてくれたことには感謝するが、何でそんな事したんだ?」

『この地上に、日本の縁日を広めて欲しいとの事です』

「そんなに気に入ったのか」

確かにそれならテキ屋の俺を連れてきたのは理にかなっているな。しかし、俺は現在無一文の手ぶらだぞ。どうしろと。

『神様があなたに恩寵を授けました。固有職業ユニークジョブ「テキ屋」です』

「恩寵?まあ確かに、俺の職業はテキ屋だが…」


どうやら、この世界での「職業」は特別なものらしい。一定の年齢になると神様から授けられるもので、自分で選べないし転職もできないのだ。

その代わり、その職業に関することであれば、元の世界だと達人とかエキスパートと呼ばれる領域の能力を最初から発揮することができる。

そして、俺のテキ屋は”固有職業”と言って、世界で俺だけの職業という意味になる。そりゃそうだ、今までこの世界に縁日の屋台が無かったんだからな。


『固有職業の場合、神様の注ぐ力が一人に集中するため、一般の職業とは一線を画す職能を発揮できます。それが”スキル”と言うもので、神様の奇跡を限定的に行使できます』

「スキル?奇跡?」

『奇跡とは、因果関係を無視して望む結果だけを実現する事です。本来は神様にしか許されない行いですが、スキルによって限定的に人にも行使が許されます』

「良く分からんが、なんだか凄そうだな」

『固有職業「テキ屋」が行使できるスキルは3つ。<射的>、<くじ引き>、<お好み焼き>です』

「まあ、確かにその屋台ならできるけど」

『それでは実際に使いながら説明しましょう』


ガイダンス精霊に言われたままにやってみる。

コルク銃をイメージしながらスキル名を口にする。

「<射的>」

ブゥゥンと低い唸りを上げて目の前にコルク銃がいきなり現れた。

「おお!何だこりゃ」

コルク銃はそのまま宙に浮かんだままだ。俺が掴むと途端に重さを感じた。

『その銃はコルク弾だけでなく、あらゆるものを弾にすることができます。弾の性質に応じた威力で攻撃することができます。そして、弾が命中して対象を倒した場合、景品が落ちます』

「んんん?」

なんか、俺の知ってるコルク銃と違うんだが。


『では早速試しましょう。弾を思い浮かべてください』

え、弾?やっぱコルク銃なんだからコルク弾だよな、とあの形を思い浮かべた途端、目の前にコルク弾が浮かんでいた。

「くっ!もう驚かねぇぞ」

さっきのコルク銃が現れた時と同じだ、大丈夫だ。

それを掴み取ると、しげしげと眺める。指でグッと摘まんでみると、適度な弾力を感じる。

「屋台で使ってるモンと同じだな」

銃があって弾があるなら、やることは一つ。俺はレバーを引いてバネをセットし、銃口にコルク弾を詰めた。

そして銃口を近くの木に向けて、幹の節に狙いを付けて、引き金を引いた。

ポン!と小気味よい音を立てて、コルク弾が飛んで行き、狙った節よりも少し下に命中した。

「ま、こんなもんか」

木の幹に当たっただけ、まだましと言うものだ。そよ風でも吹けば容易く逸れてしまうからな。


『では、もっと威力の高い弾を試してください』

とガイダンス精霊が課題を出してきた。

「威力の高い弾って言われてもなぁ」

そう言われてパッと思い浮かべたのはショットガンの弾、筒状のアレだ。詳しいことは知らんけどな。

すると先ほどと同じように、いきなり目の前にソレが現れた。

やっぱり出てきたか。

掴んでみると、ずっしりと重みがある。中身が空っぽと言う事はなさそうだ。

「で、これをどうしろと?」

どう考えても銃口には入らんし、コルク銃で発砲できるとは到底思えないぞ。

『先ほどと同様に銃口に詰めてください』

「え~」

とりあえずやってみよう。またレバーを引いて、銃口に筒状の弾を近づける。入るわけないよなぁ、と思いつつも、グッと押し付ける。

「マジか!」

明らかに口径が合ってないのに、ギュッと入っていくのだ。違和感半端ない。

神の奇跡なんだから何でもありってことか。

そう言うもんだと思っておこう。


『では、右前方の木の枝にある、青色の丸い物体を狙ってください』

言われた方を見ると、確かに枝に青緑のリンゴくらいの大きさの実がいくつかぶら下がっている。

コルク銃じゃ絶対に届かない距離だが、まあ奇跡だし何とかなるんだろう。

それっぽく構えて、それっぽく狙いを定め、引き金を引いた。

ガァン!と爆音が鳴ったが、不思議なことに反動は無かった。

そして見事に命中。青い実がパッと弾け飛んだ。

と思ったら、その周りの青い実から蜘蛛のような足が生えてきて、ワサワサと動いて逃げ出した!

「何じゃありゃ!」

もう大抵のことには驚かないつもりだったが、これは予想外過ぎる。


『あれは果物に擬態する魔物、フルーツミミックです。倒したので、景品がドロップします』

「は?景品?」

先ほど青い実、いやフルーツミミックが弾け飛んだ真下の地面が光っていた。近づいてみると、卵の殻のような物が落ちていた。拾い上げると光が消えた。

『フルーツミミックの甲殻です。錬金素材として高値で取引されています』

さっき弾け飛んで粉々だったよね、アレ。いや、深く考えてはいけないな。

はいはい、奇跡奇跡。

『このように、倒すだけでなく、落とすまでが射的です』

なるほど、うちの屋台のモットーだわ、それ。


『では次は<くじ引き>スキルの説明です。<射的>スキルを解除して、新たに<くじ引き>スキルを行使してください。なお、スキルは口に出さなくても行使、解除が可能です』

言われるまま「解除」と念じると、手の中のコルク銃が瞬時に消え去った。

今回は口に出さず、<くじ引き>と強く念じてみた。

すると、目の前に空っぽの景品陳列台と、くじを入れる箱が現れた。

「景品はどうするんだ。自分で仕入れろってことか?」

『いいえ。”支払った対価”に応じて自動で用意されます。対価となるものを陳列台に置いてください』

「対価ってのはお金の事か?」

『金銭に限りません。この世界で価値の認められるモノであれば何でも大丈夫です』

「そっか。じゃあ、さっきの殻を」

手に持ったままだったフルーツミミックの甲殻を陳列台に近づけると、急に光を放って手の中から感触が消えた。と思ったら、今度は景品陳列台が光を放った。

目をしばたたかせて二度見してしまったが、そこにはずらっと、見た事の無い物が並んでいた。

「何だ、これ」

『魔物から採取できる様々な素材です。対価に捧げたモノと同じ系統の中から、価値が1~100倍の範囲で20個の景品が出現します』

てことは、あの一番上の真っ黒な牙みたいなのが100倍の価値で、一番下のフルーツミミックの甲殻が1倍ってことか。

景品には札が付いていて、見慣れない文字で名前が書いてあるようだ。何故か俺はその文字を読むことができて、1等の景品は「黒龍ブラックドラゴンの牙」だそうだ。

思わず景品に手を伸ばすと、バチっと静電気みたいなのが弾けた。

「痛った!」

『盗難防止の結界です。ご注意ください』

もっと早く言ってほしかった!

「そうだ、この文字は初めて見るのに読めたな。どうなってる?」

『神様の恩寵の一部で、どんな言語でも読み書き会話が可能です』

「なるほどな。そいつは助かる」

屋台を開くのに言葉が通じないのはやりにくいからな。


くじ箱を見ながら考える。

「なあ、この中に当たりくじは入っているのか?」

だとすると、このままでは商売に使えないぞ。

『当たりくじの比率や、次に出るくじの番号をケンジ様が任意で決定できるようになっています。頭の中で念じるだけで変更ができます』

スゲェ、そんなことができるのか。早速試してみよう。

とりあえずは上から3番目の宝石みたいなキラキラした景品、「カーバンクルの宝石」を引いてみよう。

心の中で98番出ろ!と念じながらくじ箱に手を突っ込んで、1枚を取り出す。

端を破って開くと、そこには”98”の数字が。

「おお、ホントに指定できるわ」

すると、カーバンクルの宝石がふわりと宙を飛び俺の目の前に来た。手に取ると重さが戻る。

と同時に景品陳列台の上の品物が全て消失して空っぽに戻った。

「あれ?」

『当たりが出るとそこで終了になります。新たな対価をくじ箱に入れる必要があります』

「そういうことか」

流石に全く元手無しで丸儲け、ってわけには行かないか。

だが、自分で使う分には確実に高価な景品を貰うことができるぞ。

ん?まさか!

俺は今手に入れたばかりのカーバンクルの宝石を陳列台に近づけてみた。

バチッ!と弾かれてしまった。

『獲得した景品を対価にすることはできません』

ですよねー。


『スキル<お好み焼き>については、食材が必要となりますので、後ほど説明します。それでは、人の住む町に向かってください』

「よし!いよいよ現地人との接触だな。この宝石を売って元手を作るぞ!」

そう勢い込んで、ガイダンス精霊の指示に従って歩き出した。

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