異世界テキ屋~チートは縁日の屋台~
雪窓
異世界で縁日を
第1話 テキ屋のケンジ
※この物語はフィクションです。現実の的屋とは全く関係ありません。
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今日は縁日。神社の参道沿いに屋台が立ち並び、賑やかに人々が行き交う。
「すいませ~ん」
3人の子供たちが屋台の前に立ち、俺を呼んでいる。
「へい、らっしゃい。3人ともやるのかい?」
「はい、そうです」
「1回300円ね。はい、はい、はいっと」
子供たちからジャラ銭を受け取り、小皿に入ったコルクの弾丸を3人分用意してやる。
「指挟まんように気を付けてね」
一応注意の言葉を掛けるが、少年たちの耳には届いていない。
「やるぞー!」「ぜってー落とす!」
うん、頑張れ少年たちよ。
彼らは慣れたもので、コルク銃の銃床を腰に当てて、レバーを「う~ん!」と唸りながら引いて、銃口にコルク弾を詰める。
子供の腕には重たいであろうその銃を両手で構え、台に身を乗り出して、お目当ての商品に狙いを定める。引き金を引くとパン!とか、ポン!と音を立てて、棚に並べられた景品に向かってコルク弾が飛び出した。
コルク弾が当たってパタリと景品のお菓子の箱が倒れた。
「やった!当たった!」
と見事命中させた少年が喜びの声を上げて、俺の方を見る。
「残念。倒すだけじゃダメ。落とすまでが、射的だぞ」
「えー!ずっるい!当てたんだからいいじゃん!」
「ずるくない。ほら、ここに書いてあるだろ」
と言って、棚の後ろの張り紙を指さす。
余りにも文句を言う人が多いので、張り紙にしてあるのだ。他所は知らん、うちは昔っからこれでやってきたのだ。苦情は受け付けん!
まだブーブー言っている少年を無視して、倒れた景品を元に戻す。ちょっとサービスでさっきよりも棚の後ろ側に置いてやると、それを見ていた少年がニヤリと笑った。まあ、頑張りたまえ。
「すいません!くじ引き1回!」
この屋台は射的とくじ引きをやっているから、そっちの面倒も見なきゃならない。
「へい、らっしゃい。1回300円ね。…はい、200円お釣りね」
お釣りを財布に戻したお客、小学高学年くらいの女の子が、手をこすりあわせて祈っている。
「よーし、来い!来い!」
「はるる、頑張れ~」
うちのくじの景品は結構ファンシーな感じの物が多いので、お客も女の子が多くなる。隣の友達も応援しているが、くじ引きで何を頑張ると言うのか。
「よし!君に決めた!」
箱の中に手を突っ込んで時間をかけて1つを選んだ彼女は、目を閉じて「えい!」と取り出す。その子は自分で三角形の紙を破いて開く。中に書かれた番号は34だ。
「はい、おめでとう。ポケットティッシュね」
「ぎゃー!またハズレ~。ねぇおじさん、ホントに当たり入ってんの?」
「おいおい、言いがかりはよしてくれ。うちは真っ当にやってんだから。ちゃんと当たり入ってるよ。あと俺はまだおじさんじゃない、お兄さんと呼べ」
「じゃあ、お兄さん。友達に聞いても当たったって言う子いなかったんだけど」
やっぱり女子は独自の情報網を持ってるから手強いんだよな。でも想定内だ。
「そりゃあ、物欲センサーってやつだな。欲しい欲しいと思ってるやつにはなかなか当たらないようになってんだ。そうだな、そっちのお友達の子、1回引いてみ。お兄さんが奢ってやるから」
「え、いいんですか」
俺の記憶では、このお友達ちゃんは1回もくじを引いてない、ご新規さんだ。
その子は特に悩むことも無く、ひょいと無造作に選んだ。
「ほれ、貸してみ」
と言って、俺が手を出すと素直にくじを渡してきた。俺はハサミでチョキチョキと三角形の端を切り落とし、開いて見せる。
「お!65番、おめでとう!この3段目から好きなの選んでいいよ」
「わ、やった!」
「うっそ!1回目で当たるなんて、あかりん、ズルい!」
おや、友情にヒビを入れてしまったか?
「え~、そんなことないよ。じゃあ、これを選ぶから半分こしよ」
「あかりん、大好きー!」
かぁー、ええ子や!おい、はるる、お前はあかりんを見習え。
景品を渡してやると二人はキャッキャと喜びながら雑踏に紛れていった。
ふぅ、これで彼女のネットワークに「当たりが出た」という噂が流れて、良いカモが増えるかも。
もちろん、今のは偶然なんかじゃない。必然だ。種も仕掛けもございます、ってやつだけど、飯のタネだから教えられません。
こんな感じでひっきりなしにやってくるガキンチョを一人で捌いていく。
景品やくじの補充に、コルク弾の回収など、結構やることは多い。まあ、これも修業だと思えば頑張れる。
俺はケンジ。今年で17になる、テキ屋の見習いってところだ。
子供の頃からあこがれていたテキ屋になれたんだ。接客や話術などの技術を磨いて、もっとたくさんの子供たちを楽しませてやんねーとな。
ふぅ、と一息ついて首に巻いたタオルで汗をぬぐう。今日も暑いぜ。
「ん?なんか焦げ臭くねぇか」
不意に鼻につく臭いを感じて、周囲を見回すと、何やら隣の屋台の方から黒い煙が上がっているのが見えた。
「おいおい、マジか!」
屋台でボヤなんて出してみろ!連帯責任とか言って兄貴にぶん殴られるぞ!
巻き添えは御免だ!
俺は慌てて裏を回って隣の屋台に向かった。
隣の屋台は先輩のヤギさんがお好み焼きをやってたはずだ。
「ちょっとヤギさん、何やってんすか!」
声を掛けて屋台の裏から入ると、既に煙が充満していた。
「ゴホゴホ、おい、ヤギさん!しっかりしろ!」
何とヤギさんが倒れているじゃないか。
そして、鉄板の辺りからモウモウと煙が上がっている。こいつはヤベェ。
「おい、どうした!」
ヤギさんを引きずって外に出そうとしていると、周りの屋台からも仲間が集まってきた。
「ヤギさんが倒れて、火が上がってる。俺は火を止めるから、ヤギさんを頼む!」
俺はそう言って鉄板の方へ向かった。ヤバいな、燃え広がって炎と煙が凄いぞ。
とりあえず、ボンベの栓を閉めねぇとな。ボンベはどこだ?
ガスホースから辿ろうと、鉄板付近に目をやるがガスホースは途中で途切れていた。
「え?」
どういう事だ、と思った瞬間。
目の前が紅に染まり強い衝撃を感じた。
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