坂道

「なあ五十貝くん。国際電話って一分いくらだと思う?そう、四百円だよ。五分話しただけで二千円かかるんだ。たっかいよなぁ。で、きみの用事っていうのはそれだけか?」

 はい、という返事は掠れて声にならなかった。収集団リーダーの市松は、わざとらしくため息をつく。

「あのさ、これで僕がトレードするなって言ったら、きみはトレードしないで帰ってくるつもりなの?」

 いえ、と何とか応える。世界の民族資料を収集するという目的がある以上、その選択肢はありえない。それは電話をかける前から分かっていることだった。

「……ああ、そろそろ三分だな。じゃ、くれぐれも領収書忘れないように」

 目の前のストップウォッチには、三分三十秒と表示されていた。宿の主人に料金を支払う。受け取った領収書は、レシートのようにぺらぺらだった。

 タニオリ島の天気は変わりやすい。先程とは打って変わって、湿気が体に纏わりついてくる。日本とはどこか違う、迫ってくるような雨の気配。私は舗装されていない坂道を、急ぎ足で上っていった。

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国立世界博物館雑記 多聞 @tada_13

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