どんぐり

 まさか、蒸しかぼちゃのルーツを知れるとは。展示されている料理道具を、私はじっくりと眺める。一抱えもある大鍋は、大量のかぼちゃを蒸すのに最適な形なのだろう。百年近く変わらない料理方法と道具に、私は感心し通しだった。

 木のスプーンから銀のスプーンへの変遷展示。それに、タニオリ島の住居様式を模したミニチュア。村外れの博物館は、予想以上に充実していた。極めつけは葬礼用のマントだ。文献に書いていた通り、赤茶けた色をしている。顔を近づけると、むせかえるような動物のにおいがした。

 それは、羊の皮を使用しています。

 癖のあるイントネーションが聞こえた。声の主は私の横に立つと、言葉を続ける。葬礼で村の長が着る衣装だということは、研究者のあなたなら知っているでしょう。

 どんぐり眼をした青年は、私の顔を覗きこんで笑う。どうやらここの学芸員らしい。事前に連絡していた通り、民族資料収集に応じてもらいたいと彼に告げる。私の言葉を聞くなり、青年は背を向けて歩きだした。

 厳重な扉の先に見えたのは、様々な表情をした仮面だった。こんなに喜怒哀楽がはっきりしている仮面は、どんな文献でも見たことがない。私は興奮を抑えながら、壁に駆け寄った。やたら大袈裟にデフォルメされた顔のパーツ。不気味を通り越して、いっそユニークな印象を受ける。

 一つだけ、表情の判別がつかない仮面があった。赤褐色の肌に、水晶を入れ込んだ目。笑っているのか、泣いているのかさえ分からない。

 その仮面は、ある部族の宝だったと言われています。

 背後から青年の声がする。私が振り向くより前に、青年は件の仮面を手に取っていた。顔の横に掲げる。何か気づきませんか。そう言って青年はゆっくりと口角を動かす。その動きを視界の隅で捉えたまま、私は仮面に視線を移動させる。何故気づけなかったのだろう。この仮面には口がない。

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