第26話
「やったか⁉」
光線が終わり、再び瓦礫と砂煙で視界が悪い中、そんな声が聞こえてきた。
「それはフラグというやつだな」
「――なぁ⁉」
突風を飛ばしてやると、その場で踏ん張りながらも驚愕した様子の老人。
「ば、馬鹿な⁉ 貴様、直撃しただろ⁉」
「したな。だがその程度の攻撃では、私のマジックバリアを突破出来なかったということだ」
「く、くぅ……そんなことが、あるのか? これは一部とはいえ破壊神クヴァールの力だぞ⁉ それをただの人間がぁぁぁっ……」
必死に俺の風に耐えながら、まるでジェットコースターの直滑降をしているような顔になる。
まあ実際、すさまじい風を受け続けているのだから当然か。
「吹き飛べ」
「ぬおおおおおおおおお⁉」
俺がさらに魔力を込めると、突風は嵐のように強大なエネルギーとなって男を吹き飛ばす。
そのまま要塞の壁にぶち当たり、もたれかかるように倒れ込んだ。
そのまま止めを刺そうとさらに魔力を高めて風の刃を生み出した瞬間――。
「あ、ありえん……なんだこの魔力⁉ 枢機卿であるワシをはるかに超えたこの力、これではまるで……」
「枢機卿?」
俺は込めていた魔力を霧散させて、目の前の男を見る。
『幻想のアルカディア』というゲームにおいて、クヴァール教団は明確な敵として登場する。
だが教団は裏での暗躍が多く、表に出てくるのはオウディ大司教を中心としたメンバーで、組織の全容が明かされることはなかった。
「ふむ……」
先日、オウディと同じ大司教の一角を担うイザークという男がいた。
あれもまた、ゲームには登場しない存在。
というより、『幻想のアルカディア』ではオウディ以外の大司教も、そしてそれ以上の存在もいないのだ。
「なるほど……たしかに『教団』を名乗るのであれば、大司教以上がいるのは至極当然の話か」
オウディを中心とした教団に関しては、帝国の力をフルに使いほとんど壊滅状態に陥らせた。
しかしその割にはずいぶんと戦力が残っていたことに疑問を覚えていたが、どうやらオウディは『シオン・グランバニア』という存在をクヴァールの器にするために動いていただけであり、別部隊も帝国にはのさばっていたらしい。
先日イザークという男が現れた時点で予想できていたことだが、やはり奴らの闇は深い。
こうして一つ支部を叩き潰しても、また別のところから湧いてくるのだろう。
「となれば、この男を利用する方が早いか」
クヴァール教団の内情はわからないが、聖エステア教会では『聖女』という特別枠を除けば、トップは法王でありその下が枢機卿という位置づけ。
対立しているとはいえ、おそらくやつらも同じ形の組織だろう。
仮に違ったとしても、大司教以上の存在であることは間違いないので、情報は持っているはず。
「くくく……」
おそらく鏡を見れば、俺は今とてつもなく昏い笑みを浮かべていることだろう。
「なんだその嗤いは! このクヴァール教団の枢機卿であるグリモアを馬鹿にしているの⁉」
「馬鹿になどしていないさ。ただそうだな、せっかくだから有効活用してやろうと思っただけだ」
俺が一歩近づくと、グリモアは慌てて立ちあがり逃げるように走り出す。
老人とは思えない軽快な動きだ。おそらく魔力で強化しているからか、すぐに遠くまで行ってしまう。
それを俺はあえて見送った。別に慌ててやつを殺す必要などないのだ。
「あのリオン様、あのまま逃がしていいのですか?」
「まさか。この私がそんな甘い処遇を与えると思うか?」
俺の言葉にフィーナは首を横に振る。
中々よくわかって来たな。
「どちらにせよ、ここからは逃げられん。それに、クヴァール教団の人間は誰ひとり逃がさないさ」
「あの……一つだけよろしいでしょうか?」
「ん?」
「もし生まれたときから教団員として育てられた子どもがいたとして、その子も殺してしまうのですか?」
「……」
それは、どういった意図の言葉だろうか?
彼女の言葉で思い出すのは、生まれたときから教団の子として育てられたオウディ大司教だが、その出生には同情できる部分こそあれ、狂気に呑まれた男はもはや一つの災厄だと言える。
だからこそ、俺の答えは決まっていた。
「教団として生まれた子は普通の世界では生きられん。私から言えることはそれだけだ」
「……わかりました」
もしかしたら、フィーナは聖女として教会の中で育てられた自分と、教団を重ね合わせているのかもしれない。
「少なくとも、この要塞にいる者はこの世界を混沌へと陥れようとしている。私は自分のことを正義の使者などというつもりはないが、それでも故郷や自分の周りくらいは守ろうと思う程度には人であるつもりだ」
それが人を辞めた自分が持つべき最後の砦ともいえる。
俺の力は人として間違いなく世界最強レベルであり、ただ感情のままに力を解き放てば凄まじい災害となる。
そんな化物にならないために、俺には楔が必要だった。
だからこそ、人間らしい感情を意識的に持つ必要があったのだ。
「だからこそ、クヴァール教団はすべて滅ぼす」
そういう理由が必要なのだ。
たとえ生まれたときから教団員であっても、そこに生まれたという運のなさと、そして俺を呪って逝けばいい。
そのすべてを、
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