第43話 原因は……
日曜日の午前中。
アパート前でモモがボール遊びをしており、俺はそんなモモを眺めながらレイラと会話をしていた。
「そういえば、あの子たちの潜在魔力が上昇したように感じますが、何かありました?」
「ああ。心臓の中にあるっていう魔石が壊れたみたいだな。そうか。魔術は使用できなくなったと言っていたけれど、魔力自体は上昇したのか……」
「よく分からないのですが、その魔石には魔術を使用できるのと同時に、魔力を抑える役目もあったということでしょうか?」
「みたいだな。詳しい事は分からないけど……」
魔力の上限を制限されていたということは……彼女ら力を抑えこめることに意味があった。
察するに、いつでも操れるように操れる範囲に力を制限していたということであろう。
マナたちの住む世界の全ての人間を、その手中に収められるようにと。
聖石と魔石というシステムがあるおかげで、自分たち以上の力を持つ者が現れることもなく、そしていつでも操作することができる。
それは『支配者』から見ればとんでもなく扱いやすい相手なんだと思う。
常に自分の意のままに操れる人間……
そんな欲望にまみれた存在、危ないな。
「ねえねえ蒼馬! ボクの聖石壊してって頼んだのに、なんでまだ壊してくれていないの?」
「エレノア」
エレノアが手に剣を持って部屋から飛び出して来る。
彼女には聖石を壊してくれと頼まれたのだが、いまだその力を使えること。
要するにまだ体内に聖石が内包されているという事実に憤慨しているようだった。
「大丈夫だ。聖石の都合の悪い部分だけ『殺して』おいた」
「え? そうなの?」
「ええ。エレノアさんの魔力量も上昇しているみたいだし、蒼馬は聖石の魔術を使えるという機能だけ残してくれてようですよぉ」
「おお、なるほど……それは大助かりだ! ありがとう、蒼馬」
彼女には説明したつもりだったんだけどな……
ま、いいけどさ。
「聖石と魔石のことは少し分かったけど……困ったこともあるんだ」
「何に困っているのですか?」
「いや、戦った相手が、中途半端ではあったけれど、俺の情報を把握していたんだ」
「蒼馬のことを?」
「ああ。どうすれば俺を封じ込めるか……向こうは俺の能力を知らなかったから簡単に突破できたけど、攻め方は納得させられるようなものだった」
「蒼馬が死の力の影響で、基礎的な能力を扱えないのを知っていたということですか?」
「ああ」
俺が魔力を探知できないのも、精神系の影響を受けないのも死の力を所持している所為である。
死の力がそれら全てを『殺している』ようだ。
まぁそのことは今はどうでもいいのだけれど……
事実として、俺が死の力を持っていなかったら俺はあの結界を突破できなかっただろう。
もしコレットもいなかったら、あの時点でゲームオーバーだった。
相手の情報不足に感謝しつつも、ある一つの疑問点が浮かび上がる。
「俺の力を知っているということは――」
「マールバランドの誰かが内通しているということですか……」
「そういうことだろうな……それに俺の対処法を知っているのは限られているはずだ」
「となれば内通者は……『
「ってことだよな」
レイラは大きくため息をつき、申し訳なさそうな顔を俺に向ける。
「あ、もちろんレイラは悪くないし内通者じゃないだろうから気にする必要はないぞ」
「何故私が内通者じゃないと言い切れるのです?」
「敵はコレットのことは知らない様子だった。もしレイラが内通者だとしたら、コレットのことも相手は把握していたはずだから。コレットは黙ってこの世界に来たんだろうし、それを知っている『
「ああ……確かに」
モモは俺の方にボールを蹴って寄こす。
俺はモモに向かって軽くボールを蹴り返す。
「後さ、まだ問題というか、悩みというか、そういうのがもう一つあるんだ」
「ボクにも相談してくれてもいいよ!」
「エレノアに分かればいいんだけどな」
エレノアは剣で素振りを始めており、汗を流しながら俺と話をする。
「力は足りないけれど、ボクの世界のことだったら説明できるよ」
「エレノアの世界……というか、色んな異世界の問題なんだ」
「色んな異世界の問題?」
エレノアは汗を拭きながら首を傾げる。
「ああ。エレノアも当たり前のようにこの世界に来ているけれど……他の異世界人たちもこの世界に来ているんだ。そんなに世界を渡るのは簡単なことなのかなって」
「ああ……ボクたちが世界を渡れるようになったのもつい最近のことなんだ」
「へー。何かあったのか?」
「ボクも詳しい話は知らないけど、いきなりできるようになったんだよ」
「それは余たちも同じこと」
「マナ」
マナは階段を下りながら話を続ける。
「この間までは不可能であったのだが、次元の歪みが突然現れたのじゃ」
「次元の歪みって……何が原因で?」
「そんなの、蒼馬が原因に決まってんだろうが」
「ラーク……どういうことだよ?」
ラークは酒を飲んで、愉快そうに二階から俺たちを見下ろしている。
「お前が次元の扉を壊したからだよ」
「……え?」
「お前が次元の扉を壊したからだって言ってんだよ」
「嘘だろ……」
俺はラークの言葉に愕然とする。
まさか次元の扉を壊したから、異世界同士自由に行き来できるようになったとは……
そういえば、俺が帰って来た時は他の異世界人はいなかったってモモも言ってたもんな……
原因は全て俺。
そう考えると、なんだか滅入ってしkまう。
「まさか俺が原因だったとは……あの扉を直す方法ってないか?」
「さぁ? まず壊せたことが奇跡みたいなものなので、直すのもまた奇跡が必要なのではありませんか?」
「レイラの能力でなんとかしてくれ」
「蒼馬みたいな化け物じみた能力は持ち合わせていませんので」
「だよな……」
俺はガックリ肩を落とす。
するとそんな俺の肩にマナが手を置き、優しく口を開く。
「よくわからんが、蒼馬がその扉を壊してくれたおかげで余たちは出逢えたのじゃ。それでいいではないか」
「そうだね……蒼馬がそうしてくれたからこそ、ボクたちはボクたちの世界の真実を知ることができたんだ。感謝するよ、蒼馬!」
「マナ、エレノア……ありがとな」
二人にそんな風に言ってもらえると心が救われる。
だがしかし、色んなトラブルの原因を作ってるよな、俺って。
まさか扉を壊したことが、こんな大ごとになるなんて想像もしていなかった。
これからはもう少し考えて行動せねば。
「それにお前が扉を壊してくれたおかげで、俺らもこうして遊びに来れたわけだしな!」
「そうです。私も感謝していますわ」
「レイラも蒼馬とまた会えて嬉しいしな!」
「ち、ちょっと、ラーク!」
真っ赤になりながらラークに怒鳴るレイラ。
「俺も自分がやってしまったことに対して申し訳なさは感じるけれど……でも、やっぱり皆とこうして会えたのは喜ばしいことだと思う。うん、マナたちに会えて、レイラたちと再会できて良かったよ」
「でも異世界を行き来できない方がライバルは少なくて良かったんですけどね……」
部屋の掃除をしていたコレットが顔を出しながらジト目でマナたちを睨みつける。
マナとエレノアは負けじとコレットに視線を返し、勝気な瞳を浮かべた。
「それこそ運命というものじゃろう。余と蒼馬は出逢うべくして出逢ったのじゃ」
「何言ってるんだよ。魔王はおまけだよおまけ。蒼馬と出逢う運命にあったのはボクの方だ」
「違う! 余の運命じゃ!」
またギャーギャーと喧嘩を始めてしまうマナとエレノア。
敵対する必要が無くなったというのに、喧嘩は止めないんだな。
俺は二人に出逢えた運命に感謝しながら、喧嘩をする運命にある二人を見て苦笑いを浮かべるのであった。
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