第33話 帰り道、空
三人で見た映画は、アクション物の内容であった。
主人公が科学の力で超人となり、悪を倒すという熱いストーリー。
泣ける要素もあり、戦いのシーンは手に汗を握るほど熱中できた。
エレノアとマナも楽しめたようで、興奮しきった様子でスクリーンに釘付けとなっており……喧嘩をするような雰囲気は皆無。
熱中できるものを共有することによって話題ができ、喧嘩をすることなく仲良くお喋りをする。
俺の思い通りにいってくれればいいのだけれど……どうなるものか。
「いやー、面白かったね」
「ああ、アクションもストーリーも面白かった。中々の名作だったな」
「じゃの。初めて映画という物を見たが悪くなかった。また二人で見るとするか」
「いやいや、見るならまた三人でいいだろ」
「ははは。だね。次見る時はモモと三人で見ようね」
「いや、マナを抜いてやるなよ」
「ふむ。あの小娘と三人か……いいじゃろう」
俺の左右でお互いを無視して俺と会話する二人。
一緒に盛り上がってたはずだが、どうやら効果は低かったようだ。
これぐらいじゃあんまり意味が無かったかな?
「次はモモを入れて四人で見るぞ。それならまた連れて来てやるよ」
「「…………」」
「そんなにお互いが嫌なのかよ!?」
「だって……魔王だしね」
「相手は勇者じゃしな。余たちは敵対することを宿命づけられた存在。忌み嫌うことがあっても仲良くすることはありえん」
「宿命って……お前ら元の世界じゃどんなやりとりしてたんだよ?」
エレノアはゴミでも見るような視線でマナを睨みながら言う。
「そりゃ戦ってばかりいたさ。ボクは最前線に出て魔族と戦って……でも魔王は卑怯なんだよ。だって四天王にばかり戦わせて、自分で戦おうとしないんだ」
「ぬはははは! おぬしはバカか! 余は王ぞ? 王が一戦士と戦うと思うか? 戦いたければ全ての魔族を超え、余の下まで来ればよいだけじゃ。そうすれば少しぐらいは考えてやっても良かったのじゃがな」
「それが卑怯だって言うんだよ! 正々堂々ボクと決着をつければいいんだ!」
「ふん。お主はまだ四天王さえも倒しておらんじゃろうが。余と戦いたければあやつらを倒してから来るがいい」
「お前ら、もう止めとけ。そろそろ目立ち始めたぞ」
映画館の受付場所で喧嘩をしていた二人。
やはりその容姿と怒声を浴びせ合う様子は目立ちすぎるようだ。
「ふん。余は他人の視線など気にせんからの。余が気にしとるのは常に魔族のことじゃ」
「ボクだって人間の平穏のために戦ってるんだ」
「……おぬしと余では、課された責任の大きさが違う。余は色々なことを考えなければならん。一介の戦士であるおぬしと違って、戦えばいいなどという考えをしておれんのじゃ」
「それってボクをバカにしてる!?」
「そりゃそうじゃ。おぬしはバカじゃしな」
「ああもういいから。ほら、帰るぞ」
俺はマナの体を引き寄せる。
作戦は失敗。
同じ物を楽しめる感性があるというのに、仲良くすることはできない。
少し仲が悪い学生ぐらいの感覚でいたけれど、やはり二人は勇者と魔王なのだ。
相容れぬ存在。
熱と冷気。
光と闇。
仲が悪いのが当然で……その二人の仲を取り持つなんて考えは間違っていたのかも知れない。
でも俺は信じている。
人と人の可能性を。
どんな人種であろうと、どれだけ違いがあろうと、きっと誰もが分かり合えるはずなのだ。
必要なのはきっかけ。
映画がきっかけになればいいなんて考えていたが……この程度じゃどうしようもないようだ。
「蒼馬。ボクと一緒に帰ろうよ。魔王は走れないみたいだし、放って帰ろ」
「か、帰るなら余と帰るぞ。電車でゆったりのんびりとな」
「いや、電車では帰らない」
「え……ゆ、勇者と帰るのか?」
マナは寂しそうに上目遣いで俺を見る。
「ああ」
「そ、そうか……」
「そういうことだから。じゃあね、魔王」
「じゃあねじゃねえよ」
「え? でも蒼馬、ボクと一緒に帰るんだよね」
「ああ。ただし――」
俺はマナの手を引き、建物を飛び出す。
「一緒にだ!」
人目がつかない裏口から、屋上へと一気に飛び上がる。
「う、うわああああああああ!」
俺の腕の中にはマナがいる。
彼女は目の前に広がる空の景色に驚き、そして感動しているようだ。
「す、すごい……すごいの、蒼馬!」
俺たちの前には赤い世界が広がっていた。
多くのビルに電車。
車もバスも全てが小さく見える。
「ちょっと蒼馬! 魔王だけズルいよ! それにボクという婚約者がいるというのに!」
「だから婚約者じゃないって言ってるだろ」
「ふっふーん! 勇者より余のことを選んだようじゃの、蒼馬は」
「そ、そうなのかい?」
「そんなわけないだろ。俺はどっちも選ばない。二人の戦いには加担する気はないんだよ」
「…………」
「でも、二人が仲良くするなら力は貸す。あ、お前たちの世界に行くって意味じゃないからな」
「じゃったらこの先そんなことは一生ないじゃろうて」
「そうだろうね。ボクたちが仲良くなるなんて天地がひっくり返っても無い話だよ」
そう言いながらエレノアは華麗に宙を舞う。
夕焼けに照らされた彼女は美しく、俺はほぅとため息をつく。
「ああ! なんで勇者に見惚れておるんじゃ!」
「見惚れてない、見惚れてない!」
マナはそんな俺の様子に気づき、少し怒っているようだった。
二人は歩み寄るようなことを一切考えていないようだ。
けど、この景色はそんな些細なことを忘れさせてしまうほど綺麗で、二人はずっと空の中で沈みゆく太陽を眺め続けていた。
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