第22話 屋上での奇襲

 穏やかではない男たちの表情を見る。

 彼らの顔には殴られた跡が残っており、そこで俺はそいつらが、昨日のした連中だということに気づく。

 まさか昨日の報復に来たのか……

 なんて思うが、常識的に考えてあり得ない。


 だってこいつらは普通の一般人のはず。

 じゃないと昨日やられている間にもう少し力を見せているはずなのだから。


「てーい!」


 今にも俺を襲おうとしていた男たち。

 そんな男の一人に、遠くから飛んで来たエレノアが蹴りを放つ。

 蹴られた男は顔面を歪ませ、ボールのように何度か地面をはねる。


「今日は助太刀するよ、蒼馬!」


「なんだか楽しそうだな」


「そうかな?」


「そうとしか見えない」


「じゃあそうなんだろうね。ボクはこの状況を楽しんでいるのかも知れない」


 エレノアは戦う気満々の様子。

 だが俺はそこで、男たちの足の骨が折れていることに気づく。


 この間、山で俺を襲ってきた奴と同じだ。

 足はさっきここに着地した時に折れたのか?

 その衝撃に肉体が耐えきれていない。


 もしかしてこいつら……誰かに操られているのか?


「エレノア」


「なんだい?」


「出来る限り怪我をさせないように戦ってくれ」


「えええ……それはちょっとストレスが溜まりそうだね」


「お前は暴れたいだけか」


「体を動かすのが好きなんだよ!」


 そう言ってエレノアは駆け出す。

 相手の数は残り七人。

 

 まだ把握しきれていはいないが……多分、エレノア一人でもなんとでもなる実力だろう。


「よっと!」


 エレノアは相手の腹部に拳を叩き込んだ。

 それだけで気絶すれば良かったのだが……意外と相手はしぶといようで、唾液を垂れ流しながら俺に向かって走り出そうとする。


「まだ意識があるなんて……このっ!」


 エレノアはクルリと体を横回転させ、踵で相手の後頭部に蹴りを入れる。

 先ほどのパンチよりも強力で、さすがに男はこれで気を失ったようだ。

 実はその時、エレノアのパンツが見えたのだが内緒にしておこう。

 ちなみにはいているのは縞パンだった。


 エレノアが倒した男以外の六人が俺に飛び掛かってくる。

 目的はあくまで俺ってことか。


「蒼馬!」


「大丈夫」


 男たちの全く大したことのない動き。

 やはりこの程度かとため息をつきながら前に出る。


「五秒で片をつける」


 眼前に迫った男の腹に、親指以外の第二間接で触れ、そして軽く前に突き出し拳全体を当てる。

 そして生ずる威力だけを相手の体内に置いて・・・きてやると――男は吹き飛ぶことなく、その場で膝から崩れ落ちた。


「えっ?」


 エレノアが驚いている間に同じ要領で三人の意識を奪っていく。

 残りの二人は俺の迅い動を目で追うことができていないようで、俺は素早く背後に回り、首の裏から軽く拳を入れてやる。

 すると二人も簡単に気絶をし、これにて決着だ。


「…………」


「ん? どうした?」


「いや……動きが迅すぎて見えなかったんだけど……何したの?」


 俺の動きに目を真ん丸にするエレノア。

 迅すぎって言っても、そこまで速く動いたつもりもないんだけどな。

 俺は吹き出しそうになるが、笑いを噛み殺しながら教えてやる。


神意無双流しんいむそうりゅう……マールバランドで習った拳法だ」


「拳法……凄い! 蒼馬はそんなの使えるんだ!」


「生きるのに必死て、頑張って習得したんだよ」


 師匠はラーク。

 厳しい訓練の日々だったけど、こうして他を圧倒する力を有することには成功した。

 まさかこっちの世界に戻ってまで使おうことになるとは思わなかったけど。


「今のは出来る限り相手に怪我をさせない戦い方でさ、意識だけを奪ったんだ」


 男たちを確認しながら、エレノアはおおっ! と感嘆の声をあげる。


「凄い……蒼馬は本当に強いんだね」


「これぐらい、覚えたら誰にでもできるさ」


「え?」


 エレノアは目を輝かせ俺の瞳を覗き込んでくる。

 俺はその近さ、そして綺麗さにドキッと胸を高鳴らせた。


「じゃあそれ、ボクも覚えたら強くなれるってこと?」


「まぁ、そういうことになるな……」


「だったらボクにも教えてよ! ボク、もっともっと強くなりたいんだ。魔王にも負けないぐらいにね」


「……マナと戦うためだったら教えない」


「えー。お願いだから教えてよー」


「ダメだ。喧嘩をしない約束するなら教えてやってもいいけどな」


「うー……」


 頬を膨らませてジト目で俺を見るエレノア。

 その可愛らしさにときめきつつ、俺は苦笑いを浮かべる。


「ん?」


「ん? どうしたの?」


「いや……視線を感じるんだ」


「視線……?」


 俺はマンションの端に寄り、視線を感じる遠くの方を見る。

 少し殺気のこもった視線……この間のように、エレノアとマナみたいな殺気が無い視線を感じることはできないが、これだけハッキリと殺気がこもった視線なら俺も感じることが可能だ。


 これは技術とかではなく、ただの野生の勘のようなものだけど……

 とにかく、こちらに向けられている殺意は感じ取ることはできる。


「エレノア、そいつらを病院に運んでやってくれ!」


「え、ちょっと! 蒼馬!」


 俺はマンションから飛び出し、視線の先へと向かう。

 こいつらをけしかけた奴がこの先にいるはず。


 俺は軽い怒りを覚えながら、弾丸のように飛翔する。

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