第21話 早朝走る二人

「蒼馬様。お金はいくらありますか?」


 コレットが朝食を用意しながら、俺にそう聞いてくる。

 

「そうだな……生活に困ることはないぐらいあるよ」


 学校の制服に着替えた俺は、コレットに通帳を見せる。

 コレットはふむふむと通帳を見ながら目玉焼きを作っていた。


「これだけあれば、もう少し大きいところに住んでもいいんじゃありませんか?」


「それもありだな……モモ、別のところに引っ越しするか?」


「蒼馬がいればどこでもいい」


 まだ布団の中で横になっているモモは、眠たそうにそう答える。


「だけど引っ越しするのも面倒だな。ここも住めば都というか、三人で住んでいても意外と心地悪くない」


「ですね。蒼馬様がいるだけで最高の気分です。あ、でも四人になったら狭いですよね、ここじゃ」


「四人? なんで四人になるんだ?」


 もしかして他に誰か来るのか?

 俺は記憶の中でここに来そうな人物のことを思い浮かべる。

 ……思いつかない。

 となれば誰のことを言っているんだろうか。


「え? 私たちの子供ができたら四人じゃないですか」


「おい。そんな予定はねえよ」


「予定はありませんが、出来たらいいですねって話です」


「作る気も作る行為もしない! 何言ってるんだよ、ったく」


 話を聞いていたモモがガバッと起き上がり、俺の足にしがみ付く。


「蒼馬はモモと結婚する」


「はぁ!? 蒼馬様と結婚するのは私だっつーの! ガキはさっさと故郷にでも帰れ!」


「帰るのは牛。蒼馬はモモと一緒に暮らす」


「まぁまぁ、喧嘩するなよ。そんなことよりさ、コレットはここでいいか? 不便なら別のマンションに移り住んでもいいちゃいいんだぜ。面倒だけど」


「そうですね……」


 コレットは出来上がった朝食をテーブルに並べながら言う。


「あ、そう言えば蒼馬様、きん持ってましたよね?」


「金? ああ、サリサに貰ったやつな」


 俺は左手に付けてある金のブレスレットに触れる。

 これは『亜空間の腕輪』と言って、どんな物でも収納できる不思議な空間を操作する道具だ。


 亜空間の腕輪がキラリと光ったと思うと、目の前に黒い渦が生まれる。

 その中は闇。

 だがここに俺の私物や武器などが数多く収納されている。


「これだな」


 中から金の塊を取り出す。

 それはサッカーボールほどの大きさの物で、数は二十ほどある。


「これ、売って来てもいいですか?」


「ああ。別に構わないけど……どうするんだ?」


「貯金を減らすのはあれですけど、これでお金を作ってちょっと考えがあるんですよ」


「ふーん。ま、お前に任せるよ」


「いただきます」

 

 モモの食事の挨拶で朝食が始まる。

 用意されたのは目玉焼きとハム、それに食パン。

 

 俺は目玉焼きとハムをパンにはさみ、口にする。

 程よい塩加減にハムのうま味。

 簡単だけど美味い。


「塩加減がいいよな。やっぱりコレットがいてくれた方が助かるよ」


「牛は料理と掃除が得意。そこは認める」


「ふっふーん。そりゃ蒼馬様のために腕を磨いてまいりましたから。こんなぐらい、まさに朝飯前ですよ」


 コレットがいてくれるおかげで部屋も綺麗なった。 

 ずっとだけど彼女に頼りっきりだな、俺。

 

「じゃあごちそうさん。学校に行って来るよ」


「えー。蒼馬、今日も学校?」


「ああ。出来るだけ早く帰ってくるからコレットと一緒に遊んでてくれ」


「蒼馬様がいない間に山にでも捨ててこようかな」


「おい」


「冗談ですよ。蒼馬様の嫌がることはしませんから」


「だったらこのアパートの住人と喧嘩するなよ」


「あはは……いってらっしゃい、蒼馬様」


 こいつ、露骨に話を避けやがった。

 喧嘩はするかもしれないってことか。


 俺は呆れながら部屋を出る。

 すると丁度エレノアも部屋から出て来たようで、彼女は笑顔を向けてきた。


「おはよう、蒼馬! 今日もいい天気だね!」


「そうだな。いつもこれぐらい晴れてたら嬉しいな」


 お互いに笑顔で挨拶をする。


「あ、良かったら学校まで走って行かない?」


「別にいいぞ」


 走ったところで別段疲れるわけじゃないし。

 

「じゃあ競争しようか」


「それは御免だ。のんびり行くとしよう」


「そう? うん、そうしようか」


 エレノアは俺に並び、軽く走り出す。

 と言っても、俺たちが走るのは家の屋根やマンションの屋上だけど。


 屋根から屋根に飛び移り、空中で回転しながら屋上に着地する。


「蒼馬、これ見てよ」


 まるでフィギュアスケートの選手のように、クルクルと回転しながらマンションから落下するエレノア。

 そのまま隣の家の屋根に下り、足音も無くまた走り出す。


「上手いもんだな」


「へへへ。ただ走るのもいいけど、こうやって何かしながら走るのも楽しいでしょ?」


「その気持ちは分る」


 俺は家の屋根を蹴り、近所のどの建物よりも高く飛び上がる。


「うわわ……蒼馬、ちょっと凄すぎだよ」


 遥か下の方でエレノアが唖然としているようだ。

 ちょっとやり過ぎたかな……

 エレノアは俺について来れる様子もなく、俺は近くのマンションに着地しエレノアを待った。


「おーい。早く来い――っ!?」


 エレノアに大きく手を振ったその時であった。

 複数人の男たちが俺を取り囲むようにマンションに降り立つ。


 誰だこいつら?

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