Day5 秋灯
秋灯かのように、その星を照らす光があった。
底冷えのする秋に遮られ、六十億マイル彼方の火の玉は、何者もあたためることなく、ぽつんと浮かんでいた。宇宙は、至るところで均しく、さびしく、ここにも十一月は偏在するのだった。ひときわ輝く一等星が、氷の大地を照らしていた。君が星だと仰ぐあの光を、僕らは太陽と呼んでいた。
君は知らない。真夏の海のさんざめく日差しも、春の陽気が抱く秘密の花園も。その光に血潮を透かす、朗らかな幼子のほほえみも。小川のせせらぎ、木漏れ日のやすらぎ、ウサギの鳴き声、鹿の白い尾、あざらしのまだら、グリズリーの団欒。そのすべてを想像だにしない。
ただ、永遠の秋と、長すぎる夜。それと、千夜に一夜のささやかな白夜。
夜しか知らないとばりの国で、君はただ、白夜に生きていた。やさしい白夜のかいなに抱かれ、まなざしは氷平線の彼方に。何も与えず、何も奪わず、ただそこには光があった。君は光と闇を分け、光を昼と呼び、闇を夜と呼んだ。夕べがあり、朝があった。また一日が過ぎていった。
やがて、君の胸にも十一月が巣くい始める。左心房の宇宙には、孤独という名前があった。その理解できない作用によって、君は叫んだ。絶叫は夜に塗りつぶされた。それが悲しくて、やりきれなくて、君は音なき音に形を与えた。氷塊のモノリスに、君の孤独が刻まれた。
そして、薄荷のにおいがした。
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