Day3 かぼちゃ

 かぼちゃの目をぎょろっとくり抜きながら、コヘレトは黄色くなった親指をしゃぶった。双子の姉のサームズは、もう一つのジャックに目を作る手を止めずに、瞳をぐるっと回すことで抗議する。コヘレトは頭にかぼちゃをかぶった。世界が光と闇に二分した。

「真面目にやりな」サームズは手にしたのみを弟に向けた。コヘレトの身体をしたジャックは、にやにやと表情を変えた。

「『なんという空しさ、すべては空しい』!」

「あんたの中身もほじくりだしてやろうか?」

 しぶしぶ、彼はかぶりものを外した。かぼちゃの生首は、もとのぎょろり目に戻った。

「わかってんの? 明日が何の日か」

万聖節前夜ハロウィーンだろ。わかってるさ」

「わかってない。『血族』がみんな、みんな集まるんだから」

 コヘレトは声をひそめて、姉の耳に口を寄せた。

「……ジャーヴィスさんも?」

「呼んだかね?」

 突然響いた声に、姉弟の肩はびくっとはねた。振り向くと、二人だけしかいないはずの地下室に、口髭をたくわえた紳士が座っていた。さも当然という居住まいだが、彼は地下室の入り口とは反対側のカウチに腰掛けているのだった。二人に気づかれずに、どうやって?

「招待状を届けに来たのさ」

 男は、懐から一枚のはがきを取り出した。近所の電気屋の、新型掃除機のディスカウントのお知らせだった。

「それが招待状?」コヘレトがおそるおそる尋ねた。

「いいや、この僕自身がさ」ジャーヴィスは気障たらしくウインクをした。「招待状にしては少々おしゃべりだけどね、まさか僕に封蝋はしないだろう?」そう言って、くつくつと笑う。

「あなたと、口を聞かないように言われているんです」サームズは生真面目に言った。

「実は僕もです」慌ててコヘレトも続けた。

 そうかい、とジャーヴィスは肩をすくめた。姉弟は男を知っていた。『血族』の中でも嫌われ者だった。特に、二人の母親が彼を毛嫌いしていた。

「じゃあ、役目を果たしてお暇しよう。マリアに、今年はサリーのところだと伝えてくれるかな。時間は言うまでもないね。ああ、先ほどの質問だがね。もちろん僕も参加するよ、コヘレト君。ではまた会おう。マリアは怒り狂うだろうね、君たちからとりなしておいてくれ」

 彼は立ち上がると「薄荷は?」と二人にキャンディを差し出した。双子が揃って首を振ると、ジャーヴィスはそれを自分の口に放り込んだ。

「コヘレト! サームズ! 下に誰かいるのかい?」

 母親のマリアの声が、遠くから聞こえた。サームズが「いないわ!」と叫び返す。そして、視線を件の侵入者に戻すと――そこには誰もいなかった。電気屋のはがきがカウチに残されていた。薄荷の包み紙が、かさりと床に落ちた。

「はがきだ!」コヘレトが叫んだ。「僕、見たんだ! あいつ、はがきのなかに吸い込まれてった!」

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