妹とイチャつくラノベ書いてるのが妹にバレたら、急に妹がデレ始めたんだが?
ニッコニコ
短編
「オイ、クソ兄貴起きろよ」
途切れていた意識が繋がる。
小鳥の囀りに、カーテンから溢れる優しい日差し。
徐々に状況を理解していく。
ああ、もう朝か……。
今日も妹の明里がわざわざ起こしに来た。
その言葉には少々傷つくが、昔から変わらず毎朝起こしてくれるだけまだ可愛げがあるもんだ。
「ご飯、できてるから」
「おう」
「あとさ……その間抜け面やめてくれる?」
いや、そんなこと言われてもな……。顔のパーツに関してはこれがデフォルトだし、今更どうこうもない。
「眠そうな顔のことよ。ばーか」
ああ、そっちか……。ナイスエスパー。
それだけ言うと俺の部屋から舌打ちしながら出ていく。
なにこれぇ……起こされただけなのにこんなにも心が痛い……不思議だ。
ともあれ、起こしてくれたことに感謝しつつ手元にあるスマホで小説投稿サイトにログイン。
昨日書いた作品の伸びを確認する。
ふむ。悪くない。順調だ。
俺の作品、『妹とイチャイチャライフは最高だぜ!〜俺の妹が可愛すぎるんだけど何か質問ある?〜』が書店に並ぶのも時間の問題だな。うん。
よし!今日も気分がいい。
軽い足取りでリビングへと向かった。
◇
そして、学校から帰ってきて夜。
今日もいつもの様に執筆に励む。
キーボードのカチャカチャと心地のいい音が部屋に響く。
ああ、良い。乗ってきた。もっと可愛いところを見せてくれ。恥じらう姿に、頬を赤らめ目を逸らす仕草。最高にキュートだ。
そして、ここで最高の決め言葉!
『大好きだよ、お兄ちゃん』
「うぉぉぉ!最っ高だぜ!亜里沙(架空の妹)!」
気分は最高潮。思わず叫んでしまう。
「ちっ!うるっせぇんだよ!クソ兄貴!何時だと思ってんだよ!バーカ!」
ロマンのない壁ドンと共に罵倒の声が壁越しに伝わってくる。
ご、ごめんて……。そっちの方が声大きいし音響くと思うけどなぁ……。
そう思っても口に出せない情けない俺であった。
さっきの行動に反省しつつ、すぐにパソコンと睨み始める。
先ほどのシーンに集中力を持ってかれたからだろうか?
視界が霞む。
手が乾燥してきた。
瞼がすごく重い。
スッゲェ眠い……。
いいや。今日は頑張った。
続きは朝早く起きてやればいい。だから、今日は寝よう。
重い体をなんとかベットまで運び、俺は眠りに落ちた。
◇
「……い……ちゃ…ん……て……」
頬に柔らかい感触。
ふわりと香る柑橘系の良い匂い。
もっと寝たくなるような天使の呼び声。
「おにーちゃん、起きて」
どうやらもう時間らしい。
あと5分、そう呟いて俺は寝返りを打つ。
と。
「起きて、お兄ちゃん。もう朝だよ?」
俺の隣には妹の明里の姿があった。
制服で、ワイシャツのボタンの隙間からは薄ピンクと幸せの峡谷が……いや、それどころじゃない。
「……え?」
「どうしたの?早く起きないと遅刻、しちゃうよ?」
いや、誰だ。俺の妹は俺をお兄ちゃんだなんて今は呼んでいないはずだ。昨日までの明里はバカが口癖のクソ生意気な妹だったと思うが。
「ふふ。驚いちゃって……お兄ちゃんてば、可愛い」
そりゃ、妹が別人みたいになってたら驚くよ。誰だって。
そもそも、目の前にいる少女は本当に明里なのか?
それすらも怪しくなってきたな。
「もう。朝のぎゅーがないと起きられない?」
ん?待てよ?その場面、知ってるぞ。
体験はしたことはないが見たことはある、気がする。
まさか……。
「甘えん坊さんなんだから……もう」
訳わからん事言ってる妹(仮)とは反対を向き机を確認する。
〜〜!?やっぱりだ……。やっちまった……。
ノートパソコン開きっぱなしで寝ちまった!
俺の部屋に毎朝妹が起こしに来るというのに。妹もの、よりにもよって見てて恥ずかしくなる程にイチャイチャしてる小説をそのままにして寝ちゃったよ……。
開きっぱなしのノートパソコンとかあったら絶対見るもんね!?俺だったら見るし!
「ぎゅ〜〜!」
焦っていると急に後ろから包まれる。
背中に当たる柔らかい感触は制服越しでも分かる確かな弾力を持っていて、俺を驚かせた。
「ちょ、まずいから……」
色んな意味で。朝はヤベェんだよ。
言わなくても分かるよね?
「あ〜〜……もしかして……」
俺の一言で察したのか、腰に巻き付けていた左手を俺の下腹部へと伸ばして行く。
脇腹、太もも、内もも、そしてーーーー
「流石に待てや!」
俺は布団から飛び起きた。
なんとか触られる前に回避できた。
お、俺の妹が痴女になてってた件について相談させてくれよ。
そう願ってノートパソコンに視線をやるけど、そこに写っていたのは、『妹とイチャイチャライフは最高だぜ!〜俺の妹が可愛すぎるんだけど何か質問ある?〜』とかいう、無機質な文字だった。
質問だらけである。
まさか自分の作品に質問する日が来るとは……。
「ふふ。やっと起きたね。朝ご飯、できてるから」
そこだけはいつもと変わらず伝え、俺の部屋から出てった。
間違いない。俺の妹だ。間違いなくあの少女は明里だ。
頭のどこかで分かっていた事に、そう結論付けて俺はため息をこぼした。
◇
そんなわけで、今日は罠を仕掛けることにした。
明里は本当に俺の作品を見たのかを確認する為である。
いや、多分見てる。
けど、まだ信じたくない。
だって、恥ずかしいもん!俺だって純粋無垢な男子高校生なのだ。
女の子、それも妹とイチャイチャしてるのを書いていることがバレてないことを願っている。
そんなわけで今日もノートパソコンを開けっぱで寝ることにした。
◇
「にぃに、起きて……?」
「ん、あと、ちょっとだけ……」
溶けてしまいそうな甘い声が聞こえた。
寝起きのボウッとする感覚を振り払い、眩しい朝日に苦戦しながらも、薄目で状況を確認する。
布団と一緒に俺の上に覆いかぶさっている妹。
そして、驚くことに下着姿であった。
薄い青色の生地に花柄の可愛らしい刺繍。
思わず目を向けてしまうその大きさに加わった新たな破壊力。
「あ、にぃに今、明里のおっぱい見たでしょ?」
「はぁ!?み、み、見てねぇし!?」
「ふふ、その反応、あのパソコンの主人公と同じ反応だね」
ああ、やっぱり。
ダメだぁ、こりゃ。
確定で見られてたな……。
薄々分かっていたことではあるが改めて口にされると恥ずかしい。
兄としての大切な何かが失われた瞬間である。
「やっぱ、えっちだね、にぃには……」
「いや、まぁ、仕方ないと言いますか」
「反省してる?」
「そりゃもう、もちろんですよ」
話しながら体を前後に揺らしてくるため、艶のある髪の毛が顔に当たってくすぐったい。
なんかいい匂いするし。
あと、その振り子も一緒に揺れるんですよ。
前後にゆらゆら小刻みに。
勘弁してくれませんかね?
人としての大切な何かまでは失いたくないです。
「そろそろ退かないか?」
「いいの?退いても?」
「なぜ俺に聞く!?」
それだと俺がまるで退いて欲しくないみたいじゃないか!?
「目、覚めた?」
「お陰様でな!」
「この下着、どう?」
「実の兄にその質問はないだろう!?」
「じゃあ、目覚めのちゅう、だね?」
「じゃあ、ってどういうことだ!?全く結びつかないが!?」
明里はクスクス、と軽く笑う。
そして、腕を曲げながら俺との距離を徐々に詰めてゆく。
「え、何、何?」
「ぎゅ〜〜〜!!」
今度は急に抱きつかれた。
心地のよい体温に、ドキドキを告げる振動。
本能的に、俺も明里を包んだ。
見るよりもずっとサラサラな髪に、シルクのような触り心地の生々しい感触。
胸の出っ張りとは対照的に、締まっている細いウエスト。
明里と、最後にハグをしたのはいつだっただろうか?
でも、あの頃とは確実に変化していて。
数年で俺も成長していたように、明里もまた変わっていたのだ。
それは互いの距離だけではなく、目に見えるものも確実に変化していて。
そんな当たり前の事を、俺は今気がついたのだ。
「あ」
少ししみじみとした気持ちに浸っていると明里から力のない声が上がった。
「あ」
俺もその事に気づき、間抜けな声を出してしまう。
しまった。目覚めから色々あり過ぎて全く気にしてなかった。
昨日も言ったように、朝はまずいのだ。
……言わなくても、分かるよね?
「にぃにの……硬い……」
耳元で、ボソリと呟かれるその一言に。
「ちくしょぉぉぉぉぉ!!!!」
俺は絶叫した。
人間として、大切な何かを失った瞬間であった。
◇
そんな訳で。
今日は遅刻ギリギリに登校し、何度も身悶える程後悔しながら授業を乗り切り何とか家に帰ってきた。
「ただいま……」
吐き捨てるように玄関で呟き家に上がると、誰かが奥から走ってこちらに近づいてくる音がした。
「おかえり!お兄ちゃん!」
「おう……ただい……ま!?」
伏せてた顔を明里に向けるとそこには驚きの光景があった。
メイド服を着た明里が居たのだ。
白黒調の生地に、フリルのついたミニスカート。そして、そこから覗く白タイツと太ももの絶対領域。俺の好みにピンポイントなメイドさんが出迎えてくれた。
「へへ……どう、かな……」
モジモジしながら、上目遣いで俺に尋ねた。
「いや、まぁ、かわいい……と思うけど……」
そんな眩しすぎる妹を直視できるわけもなく、俺は鼻をさすりながら呟いた。
「……そう、なんだ……私のメイド姿、かわいいんだ……」
明里は顔を赤く染めて、フリルのついたカチューシャで手遊びをした。
こんな反応完全に予想外で。
今見ている妹の顔は、15年間過ごしてきて、一回も見たことのない表情をしていた。
「あ、お兄ちゃん」
「うん?」
明里に呼ばれて返事をする。
「お帰りなさいませ!お兄ちゃん……さま?」
今度は無邪気に笑って俺に言った。
「どっちが正しいのかな?ちゃん?さま?」
そして、本当にわからなかったのかあたふたと手を振っっていた。
ああ、もう。かわいいからどっちでもイイよ!
「でも、小説だと、お兄ちゃん、だったよね!これメイド服着たら言ってみたかったんだよね〜〜!」
夢が叶ったのか一人で盛り上がってる妹を他所に、俺は冷静に考えを巡らせた。
これで確信した。
明里は俺の小説に沿って行動する。
添い寝に、下着姿に、メイド服に。それは全て俺の作品内での妹の行動そのままだ。
だったら、俺も答えを示さなければならない。
もし、勘違いしてるのならばそれを正さなければならない。
それが男としての、兄としての努めなのだから。
……にしても改めて考えるとヤベェな俺の作品。
◇
俺は自室に篭り、今までにないペースで執筆を続け、作品を投稿していった。
亜里沙と一緒にデートをした。初めて手を繋いだ。
週末、明里と一緒にデートに行った。店員からはカップルだと間違えられて、明里は恥ずかしそうに笑ったけど、どこか嬉しそうだった。
同級生に見えるかなって君は笑ってた。
亜里沙と星空を見た。誰もいない展望台で、景色を独占した。
週末、明里と二人で星を見に行った。まだ夏だからと二人して半袖だったけど、夜は寒くてせめて手だけでも温めようと手を繋いだ。
もしも、私たちが先輩後輩だったらなって星を見ながら君は呟いた。
亜里沙と紅葉を見に行った。一緒にお弁当を食べてくつろいだ。
週末、明里と電車に乗って紅葉を見に行った。折角なのでアスレチックが近くにある所を選んで遊びつつも、疲れたら休憩して、空の紅に癒された。
どうして、幼馴染じゃなかったんだろうって君は泣きそうだった。
亜里沙と初詣に行った。お互いの健康と安全を願って頭を下げた。そして、お揃いのお守りを買って交換した。
週末、明里と初詣に行った。今日は寒いからと最初から手を繋いだ。人混みの中でも決して手は離さない、と約束しながら。屋台を回って、甘酒を飲んで。お守りを交換した。恋愛成就のお守りを貰ったことが何よりも辛かった。
帰っている途中。出発した時よりも気温は上がっている筈なのに、寒いって明里は言って、誰にも気づかれないようにハグをした。
――――そして、春がやってきた。
◇
「……これで、終わりか……」
小鳥の囀りを聞きながら結末を書き終え、最後にエンターキーを押すだけだった。
一年間必死に書き上げた物語がようやく完結するのだ。
勿論、作品の質は落ちたし、評価も少し下がった。でも後悔はしていない。
たった一人の君に届いているのだから。
春夏秋冬。
巡る季節を君と過ごし、知らない君を沢山知れた。
本当に幸せで、楽しかった。
でも、もう終わらせなきゃいけない。
ボタンを押そうとしたら、部屋のドアが開いた。
「お兄ちゃん……」
「明里……どうしたんだ?」
「いや、何でもない……本当、何でもないよ……」
きっと明里も理解しているのだろう。
この結末の報われなない答えを。
「……押すよ……」
「うん……」
キーボードに手も伸ばし、ボタンに触れた所で。
「ごめん、やっぱ最後に良いかな……」
明里が俺の手を静止させた。上から握られた小さな手は震えていたから、俺は左手でその手を包んだ。
「ありがと、お兄ちゃん」
「……おう」
そして、一度大きく深呼吸をして、明里は話した。
「私はお兄ちゃんが好き。兄弟としてじゃないよ。一人の男の子として好き」
「うん」
「でも、それはダメなんだよね。当たり前だけど。兄妹同士とかいけないんだよね」
「うん……」
「だからさ、ありがとね。小説を書いてくれて。私ずっとこの思いを隠すしかないと思ってた。それで、どう接したらいいか分からなかった。そんな時にお兄ちゃんの小説を見つけたんだ。だから、こうして今思いを伝えられてる」
「……うん…………」
「だから、最後に言わせてくれないかな」
俺の頬が濡れていることが分かった。拭きもせずただみっともなく目から溢れてくる。
それは明里も、同様で。
明里は袖で、溢れる涙を勢い良く拭い、俺に笑顔で言った。
「大好きだよ!お兄ちゃん!」
最後の告白を。
最大の笑顔で。
最高に可愛く。
俺の妹は言ってくれた。
「ありがとな。明里」
明里の思いを受け取って、俺は最後のエンターキーを押した。
◇
「これでもう、普通の兄妹だね」
「そうだな」
「じゃあ、最初に握手でもしようか。ここから再スタートってことで」
ゆっくりと手を伸ばし、俺たちは握手を交わした。
「お兄ちゃんはさ……私の事、どう思ってたの?」
ガッチリ握手をしながら、妹は聞いてきた。
「いや、再スタートは?」
「離したら始まるから」
どうやらまだセーフらしい。
「まぁ、いっか。これで最後だしな」
「うん」
「好きだったよ。そうじゃなきゃ、小説なんて書かん」
この思いが真実で全ての始まりなのだ。
「そっか。じゃあ両思いだね」
「……そうなる」
「それが確認できたし、手を離すよ?」
「おう!」
「せーのっ!」
こうして、俺たちは普通の兄妹に戻った。
兄と妹。
もし、そうじゃない関係で出会ったら、俺たちは付き合っていたかもしれない。
いや、確実に付き合って幸せに過ごしていただろう。
しかし、兄妹に生まれたからと言って、後悔がある訳ではない。
だって、
「おはよう。お兄ちゃん!」
「おはよう。妹よ」
幸せの形は一つではないのだから。
妹とイチャつくラノベ書いてるのが妹にバレたら、急に妹がデレ始めたんだが? ニッコニコ @Yumewokanaeru
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