第2話 君の友達


ゆっくりと襲う眠気に逆らえず、気づけば座りながら俺はうたた寝していた。

ガタンと大きな物音が聴こえ、驚いて飛び起きた。見ると揺りかごが倒れ、そこで寝ていた赤子の姿もない。



暗い廊下が長く感じる。薄気味悪くて、大人の俺でもとても怖く感じた。

まるで子供の時に感じた、あの恐怖心が蘇ったようだ。



すくむ足を動かして赤子を探した。

恐怖心を押し退け、おそらく歩き回る赤子が一階に居ることが理解できた。

ただ一つ違和感がある。



あれほどの物音が響いてたのに、母親が一向に部屋に来てない。

仕事だろうか、寝ていた俺には状況は分からないが、普通は子供になにかあったら駆け込むはずだ。

それなのに気配すらない。色んな部屋を見に行ってきても、母親の姿は無かった。





静まる空間の中に、ウイィンという機械音と振動が伝わってくる。音がする部屋は青い光で満ちており、かすかにドアから光が漏れている。暗光だ。



母親が消すのを忘れたのか、光につられて部屋に入ると、洗濯機の前に赤子の姿があった。

動く洗濯機からは声が聴こえ、赤子はそれに答えるように叩いている。おそらく出してあげたいのだろう。



どうやら浴室に着いたようだ。カーテンで遮られたバスタブと、床に散らばる服と山のように積まれたそれがあった。




あまりに赤子が叩くし、洗濯機からは声が聴こえるので、俺はケーブルを抜いてやって始動を止めた。

中から水びたしになって出てきたのはクマの人形だった。

リアルに蒸せる声に、人形が動いて喋る様を見て俺は固まった。




「助けてくれてありがとう。ゲホッ、うぅ、もうクルクル回るのは御免だよ」





喋った。


この人形、喋ったぞ。




赤子は濡れたままの人形を大事そうに抱え、ようやく俺の存在に気がついたのか驚いていた。




「君は…この子のお兄ちゃんかい?」




怯える赤子を余所に人形は続ける。


俺はどういえばいいのかわからず、ただ黙り込んでいた。




「でも大人がいてよかった。この子のお母さんを見なかった?」




優しい男の声、それはどこか玄関先で言い争っていた男の声によく似ていた。






俺は首を振って見てないことを伝えた。





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