喧嘩するほど仲は……?

三点提督

プロローグ

「……さん、兄さん、起きてください。朝ですよ?」

 いつものようにごく平凡に訪れた僕の日常。そのはじまりを告げてくれるのは僕の

妹の氷雨である。こいつは僕達の両親が仕事の都合で滅多に家にいないという事も1

つの理由として、僕達が2人暮らしに等しいという事もあり、そのせいかお陰か、

こうして僕と2人の時はいつも優しい眼差しを向けてくれている。

「ああ、おはよう」

 さて、今日からまた新しい1週間がはじまる。そう思いつつ、一旦妹を部屋から出

して、素早く着替えをし、身支度を整えた。


僕が自室を出たのとほぼ同時に、玄関のチャイムが鳴った。

 ――相変わらず早いな。あいつら。

 それからすぐ、家主である僕の事を待つ事もなく、そこに3人の女の子が現れた。

僕の幼馴染である。

「ウィーッス。今日もいい天気だな、渡良瀬!」

「おはよ、錬磨君!」

「ご機嫌よう、坊や」

 三人は順に、龍宮寺巴りゅうぐうじともえ佐々並晴日ささなみはるひ

水都神璃々亜みずのみやこのかみりりあという、見てくれは完璧な

奴らである。そんな幼馴染達がこんな朝早くからやってくるのには理由があり、それ

は無論、僕の妹の作る手料理が目当てである。

「だってあいつの手料理ってマジで美味いじゃん?」や、「ほんとほんと!」や「そ

れは言えてるわね」など、その腕前は、少なくともこいつらの中では絶賛だ。

 ――そう、こいつらのね?

「おい、何だよ渡良瀬? さっきから溜息ばっか吐きやがって」

「いいや、別に」

 僕の幼馴染や妹は、確かに可愛い女の子達ばかりだが、しかしそれはあくまで見てくれだけの話であって、実際は――


「――さん、兄さん、起きてください。朝ですよ……朝だって、言ってるでしょ! 

早く起きてくださいよ!」

 ――クソ、もうそんな時間かよ。

 唯一の至福のひとときである夢の世界も、目覚まし時計さえ鳴り響けばはい終了。

またのお越しを何とやらである。

 ――こんな雌ガキが僕の妹だなんて。絶対認めたくねぇ。

 そのうえ、

 ピーンポーン。

 ピーンポーン。

 ピンポンピンポンピンポーン。

「毎朝毎朝ピンポンラッシュすんじゃねぇ! 新手の目覚ましでもたちが悪い

っての!」

 例えば夢の世界が二次元だとすれば、こちらの現実世界での幼馴染共は、それこそ

見てくれがいいだけのキチガイ共である。

「お、やっと起きたか。早く中入れろよ?」

「おっはよー、錬磨くーん!」

「ご機嫌よう、坊や?」

「……はぁ」

 ――空はこんなに青いのに。

 僕はもうこんな日々を何年も繰り返している訳だ。

 ――とは言え、別に嫌っていう訳じゃない。

 ――むしろこんなくだらないやり取りが僕達にとっての当たり前の日常だった。

 ――ただ、

「なぁお前ら?」

「何だよ? いきなり改まったような態度取りやがって」

「あのさみんな、僕達、あと1年で卒業だろ? だから、その、今年の――」

 その時だった。余りにも降りてくるのが遅い僕に向けて、妹が家中に響き渡

る声で怒鳴り散らした。

「ちょっといつまで待たせるんですか!? 早くしないと遅刻するでしょ!」

「……まぁ何だ? とりあえずお前らも入れや? 多分、運がよけりゃいつも通り飯

くらいなら出してくれると思うぜ?」

 そして今日も、こうして賑やか――騒がしい――一日が始まる……。

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